それぞれの最終楽章 また会う日まで!(3)
朝日新聞編集委員 中村俊介
妻は徐々に動けなくなった。通販で杖や補助器具を買い込んでは、あれこれ試していた。床に落ちたものを拾うためだと言って、縁日の露店に並ぶおもちゃみたいなマジックハンドまで取り寄せた。いったい何に使うのかわからない怪しげなものも少なくなかった。
僕はもっぱら起き上がりや歩行の手助け、家事手伝い。股関節や肩が痛いというから、近所の整形外科へ連れて行くのも日課になった。X線写真からはまだ骨への転移は見られないと聞いて、妻は喜んだ。ただ、それも時間の問題だとはわかっていたはずだ。僕の心中は複雑だった。
寝るのは妻のベッドの隣に布団を敷き、2人並んで。誰かそばにいると眠れないたちの彼女とはいつの頃からか別々の部屋だったから、最初は緊張した。多少のいびきは我慢してもらおう。
妻は次第に気むずかしくなっ…
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