防衛力強化は必要か否か 広島の日鉄呉跡地に「複合防衛拠点」計画
赤茶けた建物群の解体が少しずつ進んでいる。
広島県呉市の日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区(日鉄呉)の跡地。広さは約130ヘクタールに及ぶ。戦前は戦艦大和を建造した海軍工廠(こうしょう)があり、戦後は製鉄所として経済成長を支えた。
だが、鉄鋼需要の低迷で、日鉄呉は昨年9月に閉鎖された。協力会社を含め約3300人(2020年時点)が働き、19年の出荷額は市の製造品出荷額の約2割を占めた。それだけに地域のダメージは大きい。
その跡地に急浮上したのが、「多機能な複合防衛拠点」の整備計画だ。防衛省が3月に市などに提案し、9月には装備品の製造機能などを含む大まかな配置案を示した。
市内には海上自衛隊の基地がある。防衛省の担当者は9月、「米軍の佐世保基地や岩国基地に近く、太平洋や日本海などへのアクセスが良好で、地理的に重要な位置にある」と市側に説明した。防衛力の抜本強化のため、新たな防衛拠点が必要だとも述べた。
市や地元経済界は歓迎する。計画には装備品製造などを担う企業の誘致も含まれており、経済効果が期待できるからだ。
新原芳明市長(74)は「呉に人が増えるため、素晴らしいものになっていかなくては」と、衆院選の応援演説で語った。呉商工会議所の若本祐昭会頭(68)も「艦船などを目当てにした観光客も期待できる」と早期実現を願う。
世界に目を向けると、ウクライナや中東で戦火が上がる。「今の国際情勢には危機感がある。防衛力を高めるために必要な施設だ」(85歳の元市議)との声もある。
1.5倍の防衛費、まかなう増税は…
政府は、23年度から5年間の防衛費をそれまでの1.5倍の43兆円とすることを22年末に閣議決定した。その財源となる防衛増税について、石破茂首相は開始時期を年内にも決める必要があるとの考えを15日に示した。呉の防衛拠点整備の総費用は明らかになっていないが、防衛省は来年度予算に調査費などとして約4億6千万円を要求している。
仏教者らでつくる市民団体などは7月、防衛拠点は攻撃の軍事拠点として他国に認識されるとして、再考を求める文書を市に提出した。
メンバーの一人、西教寺の岩崎智寧住職(60)は「戦争に巻き込まれないか不安だ。仏教徒として、人を殺すための軍事産業で栄えたいとは思わない」と話す。「数十年前には思いもしなかった日本になっている。世界的な軍備拡大の流れがあるから防衛力を強化せざるを得ない、という理屈は理解できない。対話で解決してほしい」
日本の安全保障をどう確保するのか。政権を選ぶ衆院選は27日投開票される。