今年の夏、インド西部プネに住む10代の少年に言われた。
「日本食って、味がないから苦手なんです」
そんなばかな。必死に日本食のすばらしさを説明したが、どこまで理解してもらえたか心もとない。
首都ニューデリーに赴任して2年8カ月。現地の人々が毎日食べる料理も、お菓子や紅茶も「マサラ(混合香辛料)風味」になる食文化に驚かされてきた。
クミン、クローブ、カルダモン……。首都の旧市街の一角にある「スパイスマーケット」では、狭い路地に、買い物客やリキシャ(人力車)が行き交い、客を呼び込む店主のかけ声が響く。
食欲をそそる香りが漂ってくる。
スパイス店の4代目店主、シバン・グプタさん(18)は「スパイスなしでインド人は生きていけないよ」と笑った。
結婚式でもスパイスが活躍
確かに、インド人のスパイス愛はすさまじい。各家庭の台所には、複数のスパイスを保管しておく「マサラボックス」があり、結婚式では、身を清めるために新郎・新婦が黄色のターメリックを顔や体に塗る儀式も欠かせない。「スパイスジェット」という香ばしい名前の格安航空会社も。
2036年の夏季五輪・パラリンピックの開催地として立候補する意向を示した際には、経済発展や人口の多さに加えて、スパイスの交易路として栄えてきた点も強調した。歴史をひもとけば、大航海時代にインドに到達したバスコ・ダ・ガマは、コショウなどのスパイスを求めて海へこぎ出したと言われる。
国際機構がスパイスとして明記する109種類のうち、インドは約75種類を生産。貿易や産業の促進を担当する政府の商工省内にあるスパイス委員会は「インドは世界最大のスパイス生産国だ」とうたう。
世界約180カ国にも輸出され、輸出額は1987年の2億2990万ドルから2022年度には39億6千万ドルに増加した。
そんな「スパイス大国」の壁に、スパイス料理の代表格、カレーで挑む日本企業がある。
「世界一と胸を張れるのか?」
国内外で約1400店舗を展開し、「世界最大のカレーチェーン店」としてギネス世界記録に認定されたカレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)だ。
運営する壱番屋(本社・愛知県一宮市)の浜島俊哉前会長は「カレーの本場インドで挑戦しないまま、世界一と胸を張れるのか?」と社員にげきを飛ばした。
2019年、三井物産との合弁で進出を果たすと、翌年8月に首都近郊の新興ビジネス街にインド1号店を開店した。
当時は、世界中を襲ったコロナ禍のまっただ中。客足もまばらだった。それでも、日本で人気のチキンカツや野菜カレーといった定番を持ち込み、さらに、インド製カッテージチーズの「パニール」や、ギョーザに似た「モモ」入りカレーなど、現地の人に愛される独自メニューを次々に開発した。
インド人の意外な好みが見えてきた
現在グルガオンと首都ニュー…
【初トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら