広島の灰燼に「腹を切る時が…」 オッペンハイマーになりかけた学者
100年をたどる旅~核の呪縛~①
1939年、カリフォルニア大学に在籍していた米国の理論物理学者、ロバート・オッペンハイマーに向かって、同僚の物理学者ルイス・アルバレズが、声を張り上げた。
アルバレズが示した新聞は、ドイツのオットー・ハーンらが38年12月、ウランの原子核に中性子を照射すると、核分裂が起きたと証明したと伝えていた。
「不可能だ」と疑うオッペンハイマー。だが、アルバレズが再現実験に成功すると、こう言う。
「世界中の物理学者が同じ意見だ」
「爆弾だよ、アルバレズ、爆弾だ」
「核と人類は共存できない」と訴え続けてきた日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が10日、ノーベル平和賞を受賞する。20世紀初め、アルバート・アインシュタインが導いた等式「E=mc²」が原拠となった兵器は、今も世界の命運を握ったままだ。核廃絶か、人類の滅亡か――。「核の呪縛」にとらわれた世紀を考える。
「ウラン爆弾はどうにか…」40年夏、軍部に打診した仁科芳雄
映画「オッペンハイマー」が描いた一場面だ。ハーンは44年、ノーベル化学賞を受賞。その翌年、オッペンハイマーらは原爆開発に取り組む「マンハッタン計画」を成功させ、2発の原爆を投下する。日本の降伏をもって、第2次世界大戦は終結した。存在そのものが、戦争の帰趨(きすう)を決する兵器の産声を世界中が聞いた。
45年8月6日、米軍の観測機に搭乗し、広島上空のキノコ雲を見たのは誰あろうそのアルバレズ。機上から、息子宛てにこんな手紙を書いていた。
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