(社説)自衛官の不足 人口減見据えた戦略も

社説

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 有事や災害時に国民を守る自衛官の不足は深刻で、対策は急務だ。ただ、給与や勤務環境を改善するだけでは、解決にならない。急速な人口減が問題の根本にあり、それを前提にした包括的な戦略を立てる必要がある。

 石破首相肝いりの、自衛官の処遇改善に向けた政府の関係閣僚会議が基本方針をまとめた。手当の新設や金額の引き上げなどの処遇改善、営舎の個室化やインターネット環境の整備などの生活・勤務環境の改善、再就職先の拡充や定年引き上げの検討などの生涯設計の確立が3本柱だ。

 自衛官の定員は約24万7千人だが、近年は約2万人の不足が続いている。昨年度は2万人募集したところ、1万人しか採用できず、過去最低の採用率となった。

 給与の水準が十分でない。自衛隊の集団生活や組織文化が若い世代に敬遠される。定年が早いため、人生設計に不安がある。

 さまざまな要因が考えられ、それぞれへの対応は欠かせない。ただ、より深刻なのは、少子化に伴う若者の人口減少である。自衛官の主な採用対象となる18歳人口は、2040年には今の8割以下になるという推計もある。

 岸田前政権が決めた5年で43兆円の防衛力整備計画では、敵基地攻撃に使える長射程ミサイルの導入などの装備の拡充に比べて、人口減を前提にした人的基盤の強化策は乏しかった。

 今回の基本方針の一部は、来年度予算案に反映させるというが、自衛隊の前身の警察予備隊発足時からほとんど変わっていない俸給表の改定は、今の整備計画後の28年度とするなど、多額の費用がかかる改善策は、先送りされているのが実情だ。

 装備と要員は「車の両輪」であり、そのバランスが欠けたままでは、政府が掲げる防衛力強化の足元も揺らぐ。

 要員不足を補うには、無人機の導入やAIの活用などによる無人化・省人化の一層の推進が求められる。だが、それだけでは限界があるのも確かだろう。

 自衛隊の任務は、国の防衛や災害派遣に加え、諸外国との共同訓練や国際支援活動など、年を追って増えてきた。活動領域も、宇宙やサイバーなどの分野に広がっている。

 優先順位を見極め、自衛隊にしかできない任務を絞り込む。他省庁や自治体との役割分担を進め、限られた人材を適切に配置する。必要とあれば、現行の定員や陸海空の人員バランスを見直すといった抜本的な組織改革も検討の対象とすべきだ。

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