「宿便解消」をうたうデトックス法に注意 体重は減りません
医学的にはデトックスに意味はありません。デトックスにもいろいろな種類があり、腸内を洗浄しておなかの中からきれいになると称するものがあります。腸の壁にこびりついた古い便、いわゆる「宿便」から毒素が発生して体を害するという考え方が背景にありますが、医学的根拠はありません(※)。
宿便という医学用語自体はあります。「宿便性腸閉塞(へいそく)」「宿便性潰瘍(かいよう)」といった病名と同時に使われることが多いです。慢性の便秘によって腸にたまった便の塊によって、毒素の発生ではなく物理的な圧迫や閉塞により病気が起きることを指します。病気であれば保険診療で治療を受けられます。
一方、保険が利かない自費診療で腸内洗浄が行われています。価格帯は数千円から数万円で、痩身(そうしん)や美容やアンチエイジングの効果をうたっています。要するに浣腸で、一時的な便秘の解消ぐらいの効果はあるでしょうが、健康にプラスの効果があるかどうかは十分に検証されていません。腸内の便がなくなった分だけ体重は減りますが、体脂肪が減るわけではありませんので、食事を取ればすぐに元通りです。値段に見合う効果があるとは思えません。
家庭での宿便対策もあります。大根や梅干しを摂取するのは害は小さいですし、短期間の断食ぐらいならダイエットになるかもしれません。ですが、宿便対策をうたったサプリメントには怪しいものがあります。とくにインターネットの広告には根拠が不明なものが多くみられます。また、塩水を飲むという方法も行われていますが、一度に大量の液体を摂取するのは消化管に負担がかかり危険です。
コーヒーで腸を洗浄する「コーヒー浣腸(コーヒーエネマ)」は、昔からある代替療法の一つです。日本では、ある医師が「若返りデトックス法」「家庭でできるらくらく腸内洗浄」などと著書で宣伝していましたが、2015年には薬機法違反で逮捕者も出ました。さすがに以前と比べると下火ですが、動画配信サイトで紹介されていました。効果をうたって商品を売るのとは違い動画で紹介するのは合法なのでしょう。ただ、コーヒー浣腸は効果不明というだけでなく、熱傷や電解質異常による死亡例の報告が複数あります。
腸内洗浄が健康にプラスの効果があるのなら、とっくに知られているはずです。通常の医療において、大腸内視鏡検査の前に「腸内洗浄」をします。私は直腸がんの既往があるため、1~2年ごとに大腸内視鏡検査を受けますが、そのたびに2リットルの経口腸管洗浄剤を2時間ほどかけて飲みます。腸の中はからっぽになりますが、それで体調がよくなったり、体重が減ったり、肌がきれいになったりはしません。私だけでなく多くの人が腸内洗浄を受けていますが、その人たちがより健康になったという研究は私の知る限りではありません。
※大腸洗浄と自家中毒説:科学に対する無知がもたらした勝利 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9252839/
連載内科医・酒井健司の医心電信
この連載の一覧を見る- 酒井健司(さかい・けんじ)内科医
- 1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。