投票率向上目指し学生啓発に力点、識者は「住民票がネック」

杉浦達朗
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 10日に投開票された参院選群馬選挙区の投票率は、48・49%だった。2019年の前回参院選から0・31ポイント増えたものの、全国平均(52・05%)よりは低かった。国政選挙の投票率が全国平均を下回ることが続いており、県は若者の投票率向上が課題と位置づけ、学生の関心を高める取り組みを始めている。

 「国に自分の思いを伝えられる、社会を変えられる一番簡単な方法のひとつは選挙に行くことです!」

 高崎女子高(高崎市)で5日、選挙の大切さを学ぶ出前授業「笑える!政治教育ショー」があった。

 約280人の3年生を前に講師を務めたのは、お笑い芸人のたかまつななさんと「たんぽぽ」の2人。3人はスライドを使ったり、多様な年代を演じて政策を考えるゲームを交えたりして、選挙の意義や仕組みを説明した。生徒らはうなずいたり笑ったりしながら聴き入り、たかまつさんが「選挙に行こうと思った人ー?」と問うと、一斉に手を挙げた。

 みんなの前で「子どもの貧困の問題をもっと政治に届けたい」と意見を述べた平山希帆さん(17)は授業後、「小さくても、一票の積み重ねが大事だと感じた。来年の統一選から、毎回投票します」と話した。

 この日の授業は、県がたかまつさんが経営する主権者教育の関連会社「笑下村塾」と連携し、企画した。今年度中に県内の全ての高校で実施する計画で、参院選前の授業では、特に18歳を迎えた3年生に投票を呼びかけたという。

 大学・短大向けの取り組みでは、21年4月に「主権者教育を推進する群馬県大学コンソーシアム」を設立。県選管が県内の大学・短大などとともに、投票を促す授業やイベントを催したり、学生によるポスター作りに取り組んだりしているという。

 背景にあるのは、若者世代の投票率の低さだ。国政選挙の世代別の投票率は30年以上、20代が最も低く、16年の参院選から投票に参加する10代も、19年の参院選と昨年の衆院選はいずれも2番目に低かった。県選管によると、県内も同様の傾向で、19年の参院選では10代、20代とも投票率が3割程度にとどまった。

 12日に総務省が発表した速報値でも、今回の参院選の18・19歳の投票率(選挙区)はわずか34・49%で、県内も同程度とみられるという。県選管は、直近の選挙で投票率向上を目指すとともに、長期目線でも有権者を長く担う若者を重視しているといい、「引き続き、学生へのアプローチを続けたい」としている。

親元離れても住民票そのままが悪影響

 若者の投票率問題をめぐっては、学生が親元を離れて大学などに進学する際、新たな居住地に住民票を移さないことが悪影響を及ぼしているとの指摘もある。有権者の投票行動を研究する高崎経済大学の増田正教授(政治学)も、「住民票への意識の低さや手続きの煩雑さが問題だ」と話す。

 こうした指摘を裏付けるのが、次の調査結果だ。

 一つ目は、総務省が16年に18~20歳を対象に実施した調査。投票に行かない人が挙げた理由は「今住んでいる市区町村で投票できなかった」が最多だった。二つ目は、公益財団法人「明るい選挙推進協会」の15年調査。親元を離れた大学・短大生らで住民票を移したのは26・4%にとどまった。

 増田教授は「公共サービスは住んでいる市区町村で受ける。居住実態がある自治体に住民票を移すのが原則なのに『学生は地元に置いたままでも良い』という風潮がある」と指摘。自治体や大学などによる呼びかけや、子どもへの教育がさらに必要だと訴える。

 また、増田教授は住民票異動手続きの簡素化を進めるべきだ、とも主張する。海外では住民票をネットで移せたり、様々な行政手続きをまとめてできる「ワンストップ化」を導入したりする国があり、「そういう手続きが『面倒』から『便利』になれば投票率も上がるだろう」としている。

 「日本は電子投票検討の動きも鈍く、選挙制度に『アナログ』が多い。『一票を大切に』と掲げるなら、啓発以上にデジタル時代に合わせた制度づくりを進めるべきだ」

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    能條桃子
    (NOYOUTHNOJAPAN代表)
    2022年8月2日22時28分 投稿
    【視点】

    増田正教授が指摘するように、住民票の問題は大きい。住民票を移して3ヶ月居住しないとその地域での投票ができない。特に今回の参院選は3年前に比較して時期が7/21から7/10と2週弱早かったので、4月のタイミングで学校や仕事の都合で変更する10

    …続きを読む