主婦から猛勉強→英検1級「年齢は関係ない」72歳英語講師の勉強術

語学の扉

聞き手・加藤あず佐
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 「英語の勉強に、年齢は関係ない」

 大手英会話教室「イーオン」の最年長講師、日高由記さん(72)は、そう断言します。20年間の専業主婦生活を経て、46歳で英語の勉強を開始。50代で英検1級と通訳案内士の資格を取得し、「世界が広がった」といいます。「遅いなんてことはない。やる気とやり方さえ間違えなければ」という日高さんに、勉強を続けるコツやぶつかった「壁」の乗り越え方を聞きました。

 ――英語を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

 「2人の子どもの就職が決まり、子育てが一段落してふと、『何かスキルを身につけたい』と思ったんです。当時、46歳。夫は転勤が多く、20年ほど専業主婦をしていました」

 「もともと高校で1年間、アメリカに留学し、大学では英語を専攻しました。在学中に結婚し、家庭とキャリアを両立しようと思っていたのですが、子どもができて勉強どころではなくなり、中退しました。以来、英語を使う機会はほとんどありませんでした」

 ――どのように勉強を始めたのですか?

 「週1回、大手の英会話教室に通い、ネイティブとの日常会話から始めました。授業は1時間で、その前後に予習復習をしていました。学生時代に英語を勉強していたとはいえ、20年ですっかりさび付いていました。単語が浮かばないので言いたいことが言えず、悔しかったのを覚えています」

 「一方で、久しぶりに英語を話す楽しさや、一歩踏み出したという充実感がありました。英会話教室に通い始めて少し経ってからTOEICを受けると、600点ほどでした。英検は高校生で2級を取ったきり。高校生レベルからのスタートだったと思います」

 ――そこから英検1級を目指したのですね。

 「はい。英会話教室に通い始めて2、3年ほど経ったころ、先生から『英検1級を目指したら?』と言われたのです。とっさに『無理です!』と言いました。でも、資格を取って仕事をしたいという思いもあり、思い切って、英検1級と国家資格の『全国通訳案内士』を目標にすることにしました。そこで、やっぱり『壁』にぶつかったんです」

 ――どんな壁だったのですか?

 「いま振り返ると、中級から上級に進む壁だったと思います。正確に読み込む力がなく、このままでは太刀打ちできないと感じた時期がありました」

 「英検の勉強にあたって、市販の単語帳を使い、音声を聞いて発音を覚え、例文も一緒にインプットしていました。ある程度、単語力はついていたと思うのですが、複雑な長文を読むときに内容が頭に入ってこないことに気がつきました。単語の意味から推測し、何となく内容を分かった気になってしまっていたことに気づいたんです」

「多読」に走らず「精読」が鍵

 ――どのように乗り越えたのでしょうか?

 「多読ばかりではなく、精読に力を入れ、構文の理解を徹底的にたたき込みました。使ったのは、高校生用の文法書です。英文を読みながら、第4文型、第5文型といった、基本の文型の構造を読み取れているか。分詞構文や関係代名詞に気づけるか。一つの文の中に主語と動詞がたくさん出てくる文章で、主節の主語と動詞を見つけて意味をとれるかといった、地道な精読を繰り返しました」

 「簡単な例ですが、たとえば、《It seems that his father is angry》という文章では、It seemsが主節の主語、動詞で第2文型。『彼の父親は怒っているようだ』と訳せるというように、丁寧に構文を考えながら読むのです。読解力を上げるために、多読をしがちだと思いますが、基本に戻って精読も行うのがポイントです」

 ――どのくらい勉強し、成果はどう実感しましたか?

 「参考書は分厚くて重いので、1章ごとに切り離し、電車の中や隙間の時間に読みました。一度では覚えきれないので、何度も読んで、日付を書き込みました。冊子を見返すと、三つ日付が書いてあるので、3周はしたのでしょう。丁寧に構文を読み取っていくうちに、『TIME』などの英字誌を読む際に、いちいち構文を考えなくても、すっと内容が頭に入ってくるようになりました。これが私にとって、中級から上級へのブレークスルーだったのだと思っています」

 ――50代で英検1級、通訳案内士と次々に資格を取得していますね。どのくらい勉強したのでしょうか?

 「51歳で英検1級、53歳で通訳案内士の資格を取りました。まず試験を受ける日程を決め、そこから逆算して勉強の計画を立てました。リーディングやリスニングなど、その日に気が向くものから始めていました。猛勉強の末に、英検1級は1度で合格。でも、通訳案内士の試験は、1年目は不合格。2年目は親族の介護のため受けられず、次の年に合格しました。通訳案内士は、英語以外に歴史や一般教養などの科目もあったので、1日8時間ほど勉強した時期もありました」

 「介護や子育てなどで、まとまった勉強時間がとれない人は多いのではないでしょうか。そんなときにでも、『隙間時間に英語のニュースを見てみよう』とか、『子どもと一緒にディズニーのアニメを英語で見てみよう』とか、できることをやっていると、再び勉強する時間ができたときの助けになるはずです」

退職を考える年齢?から英語講師に

 ――資格を取って、世界が広がったそうですね。

 「はい。今までは家族のために役立つことを考えてきましたが、外国人観光客の案内を通じ、世界の人々の役に立てていることがうれしかった。浅草や国会議事堂などを案内し、英語で日本の歴史や文化を伝えてきました。観光客の方々が興味を示してくれるので、日本人として誇らしい気持ちになりました。多くの知り合いができて、外国の文化に触れる楽しさも感じました」

 「2006年、私は56歳。退職を考えるような年齢かもしれませんが、ここからイーオンの講師を始めました。今は都内の3校で週6回、集団授業と個別授業を担当しています。子どもから70代、日常会話から留学まで、様々な目標を持った人をサポートできることがうれしいです」

 ――「英語を話せるようになりたい」という人は多いと思いますが、何を意識したらいいのでしょうか?

 「日常会話は、中学レベルの文法でできると思います。ただ、練習が必要です。『理解』と『使いこなすこと』は別で、使いこなすには瞬発力をつけることが必要です。まずは自分自身のことを、オンライン英会話でもいいので、だれかに伝える練習から始めるのはどうでしょうか。独り言よりも、相手がいる方が楽しいんです。習慣(現在)、経験(過去)、将来(未来)の時制を意識して話すといいと思います」

 ――会話の瞬発力をつけるのに有効な勉強方法はありますか?

 「聞いた英文を瞬時に声に出して再現する『Reproduction(リプロダクション)』という方法がおすすめです。音源は何でもいいのですが、たとえば、TOEICのリスニング用のCDで、一つのフレーズを聞いたら音声を止め、聞いた音声を声に出してまねしてみるといった練習方法です。何度か聞いて聞き取れなければ、スクリプト(台本)を確認します。この練習で『聞く力』と『話す力』が同時に鍛えられ、瞬発力が上がります。私たちは想像以上に、英文を目で見て読み上げることに慣れていると思います。でも、実際の会話に台本はないのです」

「今からでは遅い」なんてことはない

 ――これから英語の勉強を始めようとしている人に、アドバイスはありますか?

 「何でもいいので、目標を持つことが大切です。『旅行で英語を話したい』『職場で英語でプレゼンをしたい』など、それぞれだと思いますが、私の今の目標はTOEICで満点をとること。数年前に満点まであと5点の985点を取りましたが、まだ満点は取れていないので」

 「そして、最初は5分からでも、毎日やった方がいいですね。続けているうちに習慣になります。私は毎日、午前中を英語の勉強に充てていて、英字紙を読んだり、海外ニュースを見たりすることが日課になっています」

 「『今からでは遅い』なんてことはありません。やる気があり、やり方さえ間違えなければ。年を取ると、記憶力を心配する人もいますが、これまでのいろいろな経験が勉強の助けになると思っています。今、イーオンの講師の中では私が最年長です。心配する生徒さんには、『私の例があるので、大丈夫ですよ』と伝えています」(語学の扉)

     ◇

 ひだか・ゆき 1950年生まれ。英会話教室「イーオン」の講師。現在、吉祥寺校など東京都内3校で、週6回授業を行う傍ら、通訳案内士として外国人観光客らのガイドも務めている。

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2023年9月16日12時30分 投稿
    【視点】

    自分の可能性を広げる楽しさ。その楽しさが関係性のなかで役に立つことで充実感や達成感を味わうこともできたりする。「あらゆる人生経験は、楽しみながら、多様な人とつながる生き方や暮らし方にいかすことができる」ということに気づき、目を向けて一歩踏み

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