第1回井上道義、14歳で「指揮者になる」 消去法で選んだ道の終着点へ
2024年末に引退します。それまでにやりたいことは、スケジュールに全部詰め込みました。
やりたい曲をやりたいオーケストラとやる。エッセー本も出します。指揮者には定年というものがないんだよ。もうあまり動けないけどそれでもスバラシイなんて褒められ方、僕はされたくない。
撤回? しません。僕はもう十分、欲張りに生きてきたから。やりたいと思ってやらなかったこと? それもないです。諸事情でやれなかったことはあるけれど。
指揮者・井上道義さんが半生を振り返る連載「一生、指揮者やってみた。」。全4回の初回です。
いのうえ・みちよし 1946年生まれ。71年、ミラノ・スカラ座主催グィド・カンテルリ指揮者コンクール優勝。各地の楽団の音楽監督を歴任する。
引退前、両親と僕のことオペラに
《やりたいことの筆頭格が、自ら創作したオペラを上演することだった。23年1月に実現する》
「降福からの道」というタイトルにしました。「降福」は、「降伏」と「幸福」をあわせた僕の造語です。ショスタコービチもスターリン政権下で、二枚舌の作品をたくさん書いてきた。そういうことができるのが、音楽なんだ。
フィクションだけど、事実上の自伝です。僕が父親だと思っていた人は本当の父親じゃなかった。本当の父親は、日本の基地に駐留していた米兵だった。そのことを僕は40歳になるまで知らされなかった。両親とも、ちょっと日本人離れした自分の顔を見て自然に気付くでしょ、なんて思ってたみたい。でもさ、そんな大事なことは直接言ってよと思うじゃない。
母から聞いた時、足元がぐら…