寝つけない時の「パブロフの犬」作戦 眠りの条件反射を引き起こす
寝つきが悪いけれども睡眠薬はなるべく使いたくないという相談をよく受けます。必要なときに適切に使用するのであれば睡眠薬もけして怖い薬ではありませんが、薬に頼らずに良質な睡眠が取れればそれにこしたことはありません。いくつかコツがあります。
まず、眠くなってからベッドに入りましょう。昔は、眠くなくても目を閉じて横になっていれば体は休まるし、そのうちに入眠するとされていましたが、いまでは眠くもないのにベッドに入るのは不眠を悪化させてよくないとされています。ベッドで眠れない経験が頭に残り、体がそれを覚えてしまうからです。
同じ理由で、ベッドの中でテレビやスマホを見たり、本を読んだりするのもよくありません。眠る以外のことをするときはベッドを離れます。いったんベッドに入っても眠れなかったら、いったんベッドから出て、できれば寝室からも出て別の部屋で眠くなるまでリラックスして過ごします。眠れないままベッドの中で過ごすのは避けるべきです。
「それでは睡眠不足になるのでは」と不安になる人もいるでしょう。しかし、一日や二日、眠れなくったっていいのです。睡眠不足になったら、次の日はきっと寝つきが良くなるでしょう。そうして「ベッドは眠る場所だ」と体に認識させるのです。
みなさんは「パブロフの犬」をご存じでしょうか。ロシアの科学者パブロフは、ベルを鳴らして犬に餌を与える実験を繰り返しました。そのうち犬はベルの音を聞くだけで唾液を出すようになります。餌という刺激が唾液という条件反射を引き起こしたのです。「眠くなってからベッドに入る」というルールに従うことで、ベッドという刺激が入眠という条件反射を引き起こすことを期待するわけです。
朝、起きる時間は決まった時間に起きるようにするのもよい方法です。前の日になかなか寝付けなければゆっくり朝寝をしたいところですが、不規則な起床時間は体内時計を乱し、睡眠リズムに悪影響を与えます。日光を浴びることも助けになります。朝の日光は体内時計をリセットし、一日のリズムを整えてくれます。
規則正しい生活が睡眠にもたらす影響は大きいです。できれば食事も規則正しく取りましょう。日中には運動をすることで、夜の睡眠の質を向上させることができます。ただし夏の時期は熱中症に注意してください。寝酒は睡眠に悪影響を与えるので避けましょう。カフェインやたばこも寝る前は避けたほうがいいです。それでもよい睡眠がとれなければ、睡眠時無呼吸症候群、うつ病、排尿障害といった病気が睡眠を妨げているかもしれませんので、医師に相談してください。
適切な睡眠時間には個人差があります。また、加齢とともに必要な睡眠時間は短くなっていくものです。若いころのように長い時間眠れなくても、昼間にむやみに眠くなって困るようでないなら、無理に眠らなくてもかまいません。大切なのは、健康的な睡眠を得るための良い環境と心掛けを持つことです。
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連載内科医・酒井健司の医心電信
この連載の一覧を見る- 酒井健司(さかい・けんじ)内科医
- 1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。