人も資金も集まらず涙 元高校演劇部長、熱意でかなえた再演の夢
2010年春、福岡県立福島高校(同県八女市)の演劇部長、入部亜佳子(いりべあかね)さん(30)は行き詰まっていた。現役最後となる全国高校演劇大会の筑後地区大会で演じる作品が決まらないからだ。
本命はスペイン内戦を描いた「ゲルニカ」という、かつて先輩たちが県大会に出場した作品だった。だが原作者と連絡が取れず、許可を得られなかった。
部員の中川智葉(ちよ)さん(30)が、こんなことを聞いてきた。「久留米で空襲があったって知ってましたか」
入部さんが住む同県久留米市は、あと数日で終戦だった1945年8月11、12日に米軍の空襲を受けた。被害は市街地の7割、4500戸を超え、214人が死亡した。
親から聞いた久留米空襲に興味を抱いた中川さんは、部員たちと話し合って演劇の題材にすると決めた。当時の空襲を体験した高齢者を探して話を聞き、脚本を書いた。
お年寄りの話は鮮明で、昨日のことのようだった。いつもひもじく、おしゃれができなかった。「戦争は絶対に、二度とやってはいけない」。あるおばあさんが繰り返した言葉を、そのままセリフに採り入れた。
第2次世界大戦末期、空襲を気にしながらも遊ぶ久留米の子どもたちを中心にしつつ、生き残った女性が現代から振り返る構成にした。地元で語られることが少なく、入部さんも部員たちも知らなかった久留米空襲の演劇は、「青色と灰色の境界線」と名付けた。
細部を大事にした。機銃掃射の音は雨に近いと聞き、「ザーザー」と再現した。空襲経験者が「そのまんま」と驚くほどリアルだった。戦時中のもんぺや防災頭巾を保管していた人に「ぜひ使って」と言われ、舞台衣装に用いた。
秋の筑後地区大会は優秀賞で通過した。校内公演では、普段は同級生らがろくに見てくれないのに、この舞台だけはシーンと見つめていた。かつてない手応えを感じていた。
だが、県大会は奨励賞にとどまり、九州大会に進む優秀賞の3校には入れなかった。
入部さんは、初めて泣いた。週2、3日だった活動日を、自分たちの代からほぼ毎日に改めた。顧問が脚本を書く高校が多いなか、生徒で作る演劇を徹底した。そうして青春を捧げた演劇部の活動は、不意に幕を下ろした。
悔し涙を流す部員たちに、他…
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