千葉県柏市の葛西敦子(かさいあつこ)さん(50)は2015年6月、男の子を帝王切開で出産した。
夫の正輝(まさてる)さん(53)との間に、不妊治療を経て授かった初めての子ども。「のんちゃん」と呼びたくて、生まれる前から名前は「望(のぞむ)」と決めていた。
看護師が望くんを枕もとに連れてきてくれた。体重は4千グラムを超え、産声も元気。顔を見たのは一瞬だったが、胸をなでおろした。
「キレイにしてもらいますね」と望くんは別室へ運ばれた。敦子さんはそのままおなかを閉じる手術を受け、1時間ほどで病室に戻った。
ところが、そこで医師から思いもよらない言葉を告げられた。
「お子さんは、表皮水疱(すいほう)症という病気の可能性があります。いま対応できる病院を探しています」
はじめて聞く病名に、事態がのみ込めなかった。
望くんは、生まれた病院から10キロ以上離れた船橋中央病院に転院することになり、救急車で搬送されていった。敦子さんは出産直後に一目見ただけで、望くんとしばらく会えなくなってしまった。
ネット情報は厳しい内容ばかり
表皮水疱症は、皮膚の最も外側の「表皮」とその下の「真皮」をくっつけているたんぱく質がうまく機能しない病気。かゆい場所をこすったり衣服を着たりするときの摩擦でも、表皮と真皮の間にすき間ができ、体液がしみ出て水ぶくれ(水疱)になる。
水疱になった部分の表皮がはがれ落ち、真皮がむきだしになることもある。その傷は治っても、再び何らかの刺激で水疱ができ、表皮がはがれ、治って……。これを繰り返す。日本で500~1千人ほどの希少難病だ。
敦子さんは入院中、スマホで病気についての情報を集めた。「治らない病気」など出てくる情報は厳しい内容ばかりだった。
病室は個室だったが、同じフロアには別の新生児やその母親もいて、だっこしたり授乳したりしている。
「なんでうちの子だけここにいられないんだろう」
「なんで健康に生んであげられなかったんだろう」
「これからどうなっちゃうんだろう」
病室で1人泣き続けた。
おなかの傷を閉じて約1週間後に退院すると、望くんが転院した船橋中央病院に向かった。
新生児集中治療室にいた望くんは、すでに傷ができたのか、手足に包帯が巻かれていた。
「やっと会えたね」
体に軽く触れることしかできなかったが、顔を見られて安心できた。
それから望くんの退院に向けた訓練が始まった。
■病院に通い、ケア学ぶ…
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