現場へ! お金は神か④
平日の昼時というのに、東京・新宿の高層ビル街のイベント会場にはたくさんの人が集まっていた。10月初め、リタイア世代が老後の生き方を学べる都主催の講演会が開かれていた。
参加者の多くは老後への不安を感じ、それを解消する何かを知ろうとやって来た人たちなのだろう。その不安を呼んだきっかけの一つは、おそらく「老後2千万円問題」だ。
注目を浴びたのは4年前だった。政府の金融審議会の作業部会が長寿社会での資産活用についてまとめた報告書に、こんな一節が盛り込まれていた。
退職後の夫婦世帯は年金だけでは毎月5万円が不足し、30年間で不足額は合計で約2千万円になる――。これに多くの国民がショックを受けた。それほど多くの資産がないと安心できないのか、と。国会では野党が「100年安心の公的年金制度のはずではなかったのか」と政府を追及した。
「あれは年金危機をあおる、誤解を呼ぶ報道でした。提言の本題はそこではなかったのに、2千万円という数字がすっかり独り歩きしてしまった」
審議会のメンバーの一人だった野尻哲史(64)はそう言って当時の報道を残念がる。
この日、イベント会場の一角で、野尻は「高齢社会における資産活用の考え方」と題して講演した。30人ほどの参加者が熱心に耳を傾けていた。
リタイア世代へのメッセージは…
金融商品の運用法を伝授して…