北朝鮮に「理想」みた日本社会問う 「兎、波を走る」の野田秀樹さん
編集委員・石合力
今から46年前、1人の少女が忽然(こつぜん)と姿を消した。野田秀樹さん作・演出の最新作「兎(うさぎ)、波を走る」は、この事件に着想を得た作品だ。なぜ今、取り上げたのか。社会への鋭い視点を演劇に込めてきた野田さんに聞く。
「兎」では、チェーホフの「桜の園」を思わせる「遊びの園」を舞台に、「不思議の国のアリス」とアリスを探し求める母親が登場する。野田作品の特徴でもある古典劇の翻案や言葉遊びをまじえながら、劇中劇の形で多重構造のストーリーがジェットコースターのようなスピード感で展開する。(記事では、作品の内容に直接触れる部分があります)
劇の冒頭シーン。波打つロープの中から現れた脱兎(だっと)役の男性がこうつぶやく。
不条理の果てにある海峡を、兎が走って渡った。その夜(よ)は満月。大きな船の舳先(へさき)が、波を蹴散らしては、あまた白い兎に変わった。アリスのふる里から逃げていく船は、代わりに兎をふる里に向かって走らせた――。
「脱兎」は、劇の後半で、ス…