第6回「宝塚は逆行している」食い違うパワハラ評価でみえた、二つのレベル
「ハラスメントをここまで否定するのか。遺族は落胆と同時に許せない気持ちを持っている。大変残念であり、やるせない」
9月末に宝塚歌劇団の劇団員の女性(25)が死亡した問題で、遺族側代理人である川人博弁護士はこう憤った。
怒りの矛先は歌劇団が11月14日に公表した調査報告書で、特に上級生(先輩劇団員)による、いじめやパワーハラスメントを「確認できなかった」としたことに向けられた。
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夢の舞台に立った劇団員は、なぜ亡くなるに至ったのか。宝塚歌劇団が公表した調査報告書には、多くの疑問が残されています。組織文化の見直しは、運営元の責任は。華やかな舞台の陰にある問題を見つめます。
報告書の認定と遺族の主張で食い違いが大きいのはなぜか。「パワハラ」と「指導」とで、評価に大きな溝ができていた。
遺族がパワハラだと主張した事例のひとつに、上級生からヘアアイロンを当てられて、やけどを負ったことがある。
しかし、報告書で認定したのは、女性は上級生から髪形の指導を受けた際にヘアアイロンが額に当たり、小指の第一関節から先程度の長さのやけどを負ったという内容だ。遺族側は上級生が「ヘアアイロンを当ててやけどをさせた」と認定していないと反発する。
故意にやったかどうかについても、報告書では女性が母親とのLINEメッセージで「(上級生が)故意に当てたのではないか」と疑っていたことを認めたまでだった。当てた上級生は女性に公演直前のアドバイスをしていたことも考慮され、「いじめ」は確認できないとした。
度重なる指導や叱責(しっせき)を受けていたことに対する評価も食い違う。
遺族側は、別の上級生から「うそつきやろう」などの暴言を受けており、パワハラにあたる行為だったと主張する。
一方、報告書では、発言の認定はせず、上級生が女性の説明に疑念を持つ質問を何度かしたことを認めたまでだった。死亡直前に上級生から指導が重なったこともわかったが、「社会通念に照らして許容される範囲を超えない」「社会通念上不相当とはいえない」と評価。「強い心理的負荷がかかっていた可能性は否定できない」としながらも、上級生による行為はすべてパワハラ認定しなかった。
こうした報告書の内容に対して、遺族側は「事実認定と評価は失当(不当)だ」と、再調査を求めている。
報告書と遺族でパワハラをめぐって、どうしてこのような食い違いが生まれるのか。
職場でのハラスメント全般に…
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- 【視点】
宙組の劇団員や歌劇団の役職員が心理的安全性が確保された場で、真実を話しやすい環境下でヒアリングに応じることができたかどうかが疑われているというのに、歌劇団がいま進めている再検証は、歌劇団のプロデューサーらによる聞き取り調査だという。 過
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