戦争・技術・社会変革の悩ましき関係 悲劇のループは超克できるのか

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国際政治学者・五十嵐元道=寄稿
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国際政治学者・五十嵐元道さん寄稿

 1945年8月、広島と長崎に原子爆弾が投下された。この爆弾が原因で死亡した人々の正確な人数は分かっていないが、一説によれば、広島ではおよそ14万人、長崎ではおよそ7万人の命が失われたとされる。その後、原子爆弾の技術は原子力発電として利用され、日本の産業を支えてきた。

 クリストファー・ノーラン監督の映画「オッペンハイマー」では、この原子爆弾の開発の様子が描かれ、話題になった。確かに開発したのは、ロバート・オッペンハイマーその人である。戦時中のアメリカが膨大な資金と人材を投入して、彼の発明を後押しした。

 しかし、そこに至るまでには、ノーベル賞を受賞した様々な研究が必要不可欠だった。デンマークの物理学者ニールス・ボーアによる原子核の研究、イギリスの物理学者ジェームズ・チャドウィックによる中性子の発見、ポーランド出身の科学者マリー・キュリーによる放射線の研究、イタリアの物理学者エンリコ・フェルミによる核分裂の研究、そして、アインシュタインによる特殊相対性理論である。

 彼らは原子爆弾をつくるために研究していたわけではないし、彼らの理論が原子爆弾の開発に直結したわけでもない。けれども、彼らの研究成果なくして原子爆弾が開発されたとは考えにくい。

巨大な「実験場」にされた広島・長崎

 第2次世界大戦で利用された技術は、ほかにも様々な自然科学の発展と結びつく。イギリスの数学者アラン・チューリングが、ドイツの暗号エニグマを解読するために発明した機械は、コンピューターの礎を築いた。タブンやサリンなど代表的な化学兵器は、殺虫剤の開発のなかで生み出された。

 自然科学は日々進歩し、世界の仕組みを少しずつ明らかにする。そして、人類に豊かさをもたらす。その一方で、人類は自らが引き起こす戦争でその成果を利用し、無数の人間を殺してきた。このように科学技術は人類にとって両刃の剣である。

 筆者はこれまで、戦争で誰がどのように命を落としたのかを科学的に明らかにする技術についての研究を行ってきた。『戦争とデータ:死者はいかに数値となったか』(中央公論新社、2023年)はその成果の一つである。

 その研究を進める過程で、戦争と科学技術の〝奇妙な〟関係に関心を持つようになった。科学技術は、戦争を通じて新しい殺戮(さつりく)兵器を生み出すが、殺戮兵器には戦争のかたちそのものをつくり変え、ひいては社会の在り方を変える力がある。

 広島と長崎での原子爆弾の投下後、アメリカはそれぞれの地域で、この兵器がどれほどの被害を生み出したのか、また、人体や自然にどのような影響を与えたのか、子細に調査を行った。つまり、広島と長崎は戦後、巨大な「実験室」にされ、そこに生きる人々、ならびに命を落とした人々はすべて「被験者」にされたのである。

 原子爆弾の威力や効果を把握したアメリカは、安全保障の中心に核兵器を据えることになる。アメリカに続いて核兵器の開発に成功したソビエト連邦をはじめとする国々もまた、核兵器を重視せざるを得なかった。

 その後、冷戦中の米ソは、宇宙開発と一体となったミサイル開発競争を経て、お互いを核ミサイルで確実に破壊し合える「相互確証破壊」の状態に至る。こうして、安全保障は核ミサイルの存在を前提に理論化、ならびに実践されていった。

 他方、第2次世界大戦後には、「戦争中に民間人を攻撃対象としてはならない」と定める国際人道法が明文化された(1949年のジュネーブ条約の第4条約)。その背景には、都市への大規模爆撃やナチス・ドイツによる占領といったヨーロッパ諸国の経験があった。

 ところが、この時点で原子爆弾そのものが禁止されることはなかった。原子爆弾が落とされれば、必然的に膨大な民間人の巻き添え被害が予想されるにもかかわらず、である。それどころか、のちに原子爆弾の限定的な使用を可能にすることで、地域的な紛争の激化を抑止するという理論まで登場する。

 こうして人類は、自らつくり出した核兵器を廃絶することも封じ込めることもできないまま、「正しい核戦略」を追求する道を歩んできたのである。

自然科学の成果を利用して

 自然科学の成果を利用した殺戮兵器の発明は、核兵器の開発後も続く。その一つが、全地球測位システム「GPS」である。これは元々アメリカ軍が開発したシステムで、今では誰もがその恩恵を受けている。ひどい方向音痴である筆者は、スマートフォンを通じた位置情報なしには、目的地にたどり着くことができない。

 ミサイルの目的地もこのGPSが教えている。1991年に勃発した湾岸戦争では、アメリカ軍の作戦のなかで、ほんの一部ではあったが、GPS技術を利用したスマート爆弾が使用された。

 ミサイルにGPSを利用するのは、攻撃を無駄なく効率的にするためであると同時に、民間人への被害を最小限にする効果を期待したからである。すなわち、軍事的な標的に正確に着弾させ、兵士を殺害するというのである。

 1999年、旧ユーゴスラビアのコソボで勃発した紛争に北大西洋条約機構(NATO)が軍事介入した際、本格的にこのスマート爆弾が使用された。国際人道法にのっとった「正しい戦争」のやり方を、欧米諸国は実現しようとしたのである。

 欧米諸国が開発したスマート爆弾は、こうして中東や東欧などの地域で実戦という名の「実験」を繰り返し、発展してきた。

 ドローンの技術もその延長線上にある。ドローンは自らの位置をGPSで把握することで、決められた場所へ飛行したり、空中で停止したりできる。先に述べたコソボ紛争では、NATOがドローンを偵察に使用した。その後、アフガニスタン戦争やイラク戦争では、本格的に情報収集に利用され、爆撃による暗殺まで行うようになった。

 言うまでもなく、ドローンの技術は現在では撮影、運搬、農薬の散布など、民間の様々な活動に利用されている。我々が享受する便利さは、戦争での血塗られた実験の成果の反映だと言ったら言い過ぎであろうか。

人工知能を駆使した「魔法使いの戦争」

 では、今まさに進行している戦場で「実験中」の技術には何があるのか。その代表例が人工知能(AI)である。

 ウクライナ戦争では、ウクラ…

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    遠藤乾
    (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
    2024年8月8日10時41分 投稿
    【視点】

     非常に重要なインタビュー記事だと思いました。とくに、技術と戦争という切っても切れない主題に関わり、やっていいことといけないことのラインを明示する必要をうたっているところです。  技術というのはデモクラシーの盲点の一つです。技術進歩の端緒は

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