中3の秋、ホームレスになった私 退学止めた校長が出した二つの条件

有料記事

編集委員・中島隆
[PR]

 子どもたちの夢を応援するイベントを2年前にはじめた人が、大阪市にいる。手塚麻里さん(39)。「こども万博」と名づけ、神戸を皮切りに各地で開催してきた。その原動力となったのは、中学生時代のホームレスの経験だった。

 手塚さんは長崎に生まれ、横浜で育った。企業経営者の父、母、そして兄の4人家族だった。

 バレエやピアノを習い、東京ディズニーランドのダンサーになりたい、アフリカの自然保護区で働きたい、などと夢をもっていた。横浜にある中高一貫私立を受験して合格。夢は看護師、に変わった。

 中学3年の秋だった。

 学校の定期テストを受けていたら、教師に「廊下に来て」と言われた。

 〈何だろう? わたし、カンニングしていないけど?〉

 教師は言った。「すぐ荷物をまとめて、ご親戚の家に行きなさい」

 行くと、母が箱を用意して待っていた。

 「きょうの夜、一時間だけ家に帰る。この箱に大切なものを入れて。もう二度と家には帰れないから」

 父が詐欺事件に巻き込まれ、もう会えないかもしれない。そう、あとで聞かされた。

 母と兄と3人で自宅に帰り、必要な荷物を段ボールにまとめた。この家には、もう帰れない。深夜に家を出て、親戚の家に身を寄せた。

高校卒業まで無償で、校長が出した条件

 手塚さんは学校に行って事情を説明し、退学を申し出た。すると、校長が言った。

 「高校卒業まで、無償で通いなさい」

 「えっ、いいんですか?」

 「ただし、条件があります」

 校長が出した条件は、ふたつ。

 条件、その一。卒業してから…

この記事は有料記事です。残り2399文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【初トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    末冨芳
    (日本大学文理学部教授)
    2024年11月2日16時25分 投稿
    【視点】

    【校長先生も、友達も、校長先生との約束を忘れなかった手塚さんも、みんなありがとう】手塚さんと記事に出てくる校長先生、友達、ホームレスのおっちゃん、みんなのあたたかいやさしい気持ちが素晴らしいですね。校長先生も、校長先生との約束を忘れなかった

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年11月4日12時14分 投稿
    【視点】

    岩田正美先生がご講演で「ホームレスとは、生きていく場所を失った状態」とおっしゃっていたことを思い出している。ホームレスとは住居という物理的な場所だけでなく、家族や職場、地域社会とのつながりを喪失している状態であり、ホームレス=路上生活者では

    …続きを読む