衆院選、兵庫知事選が兆す変調の時代 「地べた」から立て直す政治
論壇時評 宇野重規・政治学者
何かが起きている。過去最多の56人が立候補した東京都知事選に続き、低投票率下で与党が過半数割れを起こした衆院選、不信任によって失職した前知事が再選された兵庫県知事選と、驚くべき事態が相次いでいる。あるいはこれまでの政治の常識を覆す巨大な変化が生じているのではないか。新たな変調の時代が始まりつつあるのかもしれない。
衆院選のおさらいをしておこう。野党候補の乱立にもかかわらず裏金問題によって自民党が大敗する一方、立憲民主党は議席を大幅に増やしつつも野党との共闘は進まず、躍進した国民民主党が鍵を握ることになった。
「ポスト安倍」最終局面 新秩序より無秩序へ
政治学の中北浩爾は、ジャーナリストの後藤謙次との対談において、石破茂政権の誕生を「ポスト安倍」の最終局面とし、新自由主義と右派が主導する時代が終わり、自民党の伝統的な中道保守が復権したとする(❶)。ただし、ポスト安倍の状況は新たな秩序よりむしろ無秩序へ向かっているのではないかとの懸念を示す。
行政学の牧原出もまた、石破政権発足後最初の課題が旧安倍派の解体・清算であったとした上で、いかに安倍晋三元首相を乗り越え、自民党を再構築できるかを問う(❷)。鍵を握るのは政治改革であり、国会議員の政治資金を監督する第三者機関の設立を訴える。
これに対し、歴史学の木庭顕は、自民党の政権復帰後に確立した政治経済体制(『2013年体制』)は、衆院選後も変化していないとする(❸)。伝統的な利益調整が揺らいだ後に成立したこの体制において、利益争奪のために結託する徒党と宗教団体との癒着によって、政治の透明性は損なわれたままである。批判的な議論による合議としての政治のために、高等教育の立て直しを含めた市民社会の発展と、そのための政党の役割が重要である。
比較政治の東島雅昌は、キルギス、米国と日本を比較した上で、日本政治の現状を分析する(❹)。為政者による選挙操作や、ソーシャルメディアによる対立の助長は、権威主義国に限られない。日本ではそこまで激しい党派的対立は見られないものの、少数与党による政権運営という新局面に入り、「ゼロかイチか」ではなく微妙な「グラデーション」による政権選択という「負荷」が有権者にかかっている。政策ごとにどの政党がいかなる役割を担うかを観察し、政治のあり方を熟慮していかなければならない。
「自分で考えようとするほど…」2世紀前の指摘
このような状況は、1955…