ヨルダン元皇太子が語る中東の将来像 実現に必要な「英知と思考」は

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編集委員・石合力
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 混迷が続く中東で、安定のカギを握る国がヨルダンだ。パレスチナ難民らに市民権を与え、人口の3割以上を占める。親米路線を取り、隣国イスラエルとも外交関係を持つ。暴力の連鎖から脱却するには何が必要か。フセイン前国王の実弟で、中東和平交渉に長年関わってきた王室の重鎮、ハッサン元皇太子に聞いた。

 ――イスラエルによる、パレスチナ自治区ガザ地区などへの暴力は、ここ数十年で前例のないレベルに激化しています。

 「昨年10月7日以降のパレスチナ人の扱い方は、『ネクロポリティクス』(死の政治)という言葉を想起させます。そこにいる人々を無視し、地域の富を(イスラエル側が)確保するための処方箋(せん)になっています」

 「和平構築を目指さず、土地の収奪を目的とするなら、弱者と強者が生じます。力による和平は実現しません。彼らの解決策とは、実際には、意図的な住宅破壊・乳幼児の殺害・ジェノサイド(集団殺害)ともいえる状況を、パレスチナ側に受忍させることなのです」

 ――極端にイスラエル寄りの立場を取るトランプ氏が、次期米大統領に再選されました。

 「行き詰まりを打開するために果断な措置を取る、という考え方には賛成します。混迷の時こそ、新たなチャンスが生じます。その機会を捉えるには、英知と前向きの思考が必要です。その際、パレスチナ人の自決権こそが公正な未来につながるとの認識は、かつても今も変わりません」

 「しかし、イスラエルと米国からは、イスラエルの主権を占領地域まで広げようという発言が出ています。この地域に対する彼らの展望は、域内の人々の展望とは、根本的に異なっている。我々は、必ずしも交わらない並行する二つの物語の両極を旅しているようなものです」

 ――トランプ氏は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区をイスラエルに併合すべきだと考える人物を、駐イスラエル大使に起用しようとしています。

 「もし、イスラエルがヨルダン川西岸地区の占領地域を併合すれば、多くのパレスチナ人が北にあるレバノンに押し出されます。そこには別の宗派の人たちがおり、新たな戦争を生むことになります」

 「ヨルダンには、(イラク戦争シリア内戦などの混乱で)シリアから約150万人、イラクから約30万人の難民がいます。我が国は難民受け入れ所ではありませんが、意図しない形で、人口構成が流動化しています」

 ――第1次トランプ政権下では、米国が仲介した2020年の「アブラハム合意」により、アラブ首長国連邦(UAE)など湾岸諸国とイスラエルが国交を結びました。米国の中東関与を、どう見ますか。

 「彼らは戦争終結につながるといいますが、この合意は、戦争の原因をなくすものでも占領を終わらせるものでもない。この地域を(イスラエルとアラブ諸国の交流拡大により)工業化・観光地化して、世界とつなげようとするものです」

 「かつて反共産主義で世界各地に基地を展開した米国は、その後、イスラム組織(武装勢力)への敵対に転じました。アフガニスタンではタリバン(攻撃)に何兆ドルも使い、20年後に撤退しました。私は、(米国は)なぜ常にだれかと戦おうとするのか、と問いたい」

提唱される二つの構想

 ――そんな中、中東にはどのような展望があるのでしょう。

 「この地域を複数の連邦州(…

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