(社説)陸自靖国参拝 組織性は否定できない
同じ部署に所属する幹部らが、示しあわせて集団で参拝した。しかも、確認されただけで、過去5年の恒例行事だったとみられる。各人の自由意思に基づく「私的参拝」だというが、組織性は否定できない。旧軍との「断絶」をどう考えているのか。疑問を持たざるをえない。
陸上自衛隊の小林弘樹陸上幕僚副長(陸将)らの今月初旬の靖国神社参拝を、宗教的活動に関する事務次官通達に抵触する疑いがあるとして調べていた防衛省が、違反はなかったと発表した。
憲法は「信教の自由」を保障する一方、宗教上の行為を強制されないことや、国による宗教的活動の禁止を定めている。これを受け、防衛省は事務次官通達などで、部隊としての参拝や隊員への参加の強制を禁じているが、今回の事例はいずれにも当たらないと結論づけた。
調査によれば、小林氏を委員長とする陸自の航空事故調査委員会の関係者41人に、航空安全祈願のための靖国参拝の案内があり、うち22人が参加した。全員が自由意思で応じ、私的参拝との認識から、休暇をとり、玉串料も私費で払ったという。
参拝が自発的で、私的参拝の外形を整えていたとしても、「実施計画」をつくったうえ、トップを含む大勢のメンバーが一斉に行動している。これを部隊としての活動ではないというのは、苦しい説明ではないか。そもそも、航空安全祈願がなぜ靖国神社でなければいけないのかも、よくわからない。
防衛省は通達違反を否定したうえで、小林副長ら3人が移動に公用車を使ったことについては、その必要はなく「不適切」だったと認め、訓戒とした。公用車の使用自体、公務の延長上と受け止められても仕方ないというのに、正面からの検討を避けたと言うほかない。
もちろん、自衛隊員が一国民として、神社仏閣に参拝することに、何ら問題はない。しかし、自衛隊の幹部が集団を率いて靖国神社に参拝するとなると話は別だ。
靖国神社は戦前、旧陸海軍が共同で管理した。戦没者を「英霊」としてまつり、国家主義や軍国主義の精神的支柱となった。東京裁判で戦争責任を問われたA級戦犯14人が合祀(ごうし)されてもいる。それゆえ、政治指導者など公的な立場にある者の参拝は、過去を正当化するものと受け止めざるをえない。
戦後、平和憲法の下で再出発した自衛隊に、歴史への反省を疑わせるような振る舞いがあってはならない。