(社説)新幹線60年 安全守り 時代で変化を

社説

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 京都駅のホームに新幹線が入ると、訪日観光客たちが動画や写真を撮っては荷物を抱えて乗り込む姿が見られる。

 東海道新幹線がきょう、開業60年を迎えた。

 高度成長の活気あふれる1964年、東京五輪を前に歩み始めた。人生の特別な日の情景に新幹線が浮かぶ人もいるだろう。60年間で運んだ乗客は約70億人。開業時4時間だった東京―新大阪を最速2時間21分で走る。約1300人乗りの列車が多い時は1時間に17本、高密度な定時運行が東西の大量輸送を支える。

 その大前提が、これまで守ってきた安全だ。

 今年、気になるトラブルがあった。東海道新幹線で夜間に線路を整備する保守用車同士が衝突・脱線、一部区間で終日運転を見合わせた。東北新幹線では時速約315キロで走行中に車両の連結器が外れる事故が起きた。JR貨物で発覚した車輪の整備作業での検査データ不正は、JR各社や私鉄でも類似のケースが見つかった。事故を完全になくすことはできないが、安全が存在の根幹であることを常に銘記せねばならない。

 災害大国での高速走行でもある。鉄路は大地震で震度7が想定される地域や、数多くの活断層を横切っている。新潟県中越地震では上越新幹線脱線事故が起きた。阪神・淡路大震災では山陽新幹線の高架橋が落ちたが、運行していない時間で惨事を免れた。

 近年は台風などの際、事前に予告した上での計画運休が定着した。安全のために不便を甘受することへの社会の理解は深まったと言えそうだ。

 新幹線は九州や北海道にも延び、時代とともに変化してきた。新幹線車両が在来線に乗り入れるミニ新幹線も登場し、山形県秋田県を走る。食堂車は姿を消す一方、ネットを使った予約、車内で仕事のできる環境が整った。各地から特産品を運ぶ貨物輸送も始まっている。安全のための警備員の車内巡回も見慣れた光景となった。

 負の側面もある。利便性の向上は、企業が地方支店を閉じるなど経済の都市への集中を招く面もある。新幹線開業で自治体に移管される並行在来線の経営も厳しい。整備新幹線は費用に見合う効果があるか常に議論になってきた。

 全国の高速鉄道網と毎日の通勤や通学、買い物の足として地域を支える在来線をどう維持、整備するのか。60年前とは経済も人口動向も違う状況で、今の日本の身の丈にあったかたちで構想し、将来にツケを残してはならない。

 安全の堅持と、時代に合わせた変化が求められている。

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