(社説)医師偏在対策 先送りできない課題だ

社説

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 大都市に医師が集中する一方、不足が深刻な地方の病院は依然として多い。今年度からは時間外労働を制限する医師の働き方改革が始まり、確保がさらに難しくなるとの見方もある。国は実効性のある対策を打ち出す義務がある。

 9月に武見敬三厚生労働相(当時)を本部長とする「厚生労働省医師偏在対策推進本部」が発足し、年内に対策をとりまとめるという。

 医学部の入学定員(約9400人)は過去最大の規模にあり、医師は増えている。ただ、勤務が多忙で不規則な外科系や救急などの診療科は敬遠されがちとも言われる。

 焦点のひとつは、これら偏在解消のために規制的な手法を導入することの是非だ。

 病院の管理者になる際に求められる「医師少数地域での勤務経験」の期間や対象を拡大する▽医師多数地域での開業を許可制にし、上限を定める、といった案が検討されている。

 こうした案に対しては「地方勤務が若手医師にとって事実上義務になりかねない」「憲法上の職業選択の自由、営業の自由の関係との整理が必要」などとして医学界や医療界からは反対が強い。偏在解消にはつながらないとの指摘もある。

 むろん、勤務地や診療科に関して自由な選択のうえに偏在が解消されるのが理想だ。

 ただ、様々な対策が長年取られながらも根本的解決に至っていないのが現実だ。最近は美容医療に携わる若手が増え、2年間の臨床研修の後、直ちにこの分野に進む「直美(ちょくび)」も問題視されている。

 医師の養成過程には多額の税金が投じられ、診療報酬も税金や保険料で支えられている。地域医療が公共のインフラであることを思えば、医師が過剰に参入している大都市や診療科では規制も検討すべき時機に来ている。

 他方、地方勤務を若手にだけ負わせるのは無理がある。

 卒業後一定期間(標準9年間)を地域で勤務すれば奨学金の返還が免除される「地域枠」は、この15年間で医学部定員の約2割にまで増えた。地域で働く医師の安定確保につながる一方、入学時に将来の希望や適性をどれだけ見定められるのかという問題もある。望んだ研修の機会が得られ、留学や学位取得なども含め経験を積めるプログラムを用意していくことが重要だ。

 中堅・シニア世代の活用も欠かせない。地域医療に求められる知識や経験を改めて学べる機会を充実させ、マッチングなどを通して希望する地域や環境で働ける仕組みを構築する必要がある。

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