第3回昭和の企業戦士、期待した「普通」 息子はひきこもった
右肩上がりの時代に仕事優先で生きてきた父親たちが退職後、実家にひきこもって暮らす我が子と向き合っています。「働いてこそ一人前」と押しつけるのではなく、ありのままを受け入れよう――。ときには途方に暮れながら、子が動き出す時を待っています。
関東に住む男性(72)は、ひきこもり状態の40代の息子に家事の大半を任せている。ただ、洗濯物は男性が干す。「いい年して家にいる」と近所から見られないかと、息子が気にするからだ。2015年に退職し、持ち家のマンションで一緒に過ごす。
会話はなく、用事があると、息子は紙に書き置いて伝える。「すまないが、節約のため以下の食品を買いだめしてほしい……」
息子の部屋は片付き、身なりもきちんとしている。思い返せば幼い頃から、良くも悪くも神経質な性格だった。
8年ほど前、息子は正社員として10年以上勤めた家電販売会社をリストラのような形で退社。再就職した職場も長く続かなかった。アパートにこもる息子を案じ、その後、同居を始めた。
職場で何があったのかは聞けていない。ただ、息子は当時、「おれはだめなんだ」と繰り返していた。そして、正社員での再就職にこだわっていた。
息子と対話した4時間
昭和のモーレツ社員だった父が思い描いた「普通」。自分を責めて、ひきこもった息子には、父に吐きだした思いがありました。
子どもが起きる前に出勤して…