第1回囲碁棋士・小林光一、住み込み修行初日 8歳の趙治勲に驚いた
《9月で70歳になる現役棋士は、未明に起きてパソコンを起動し、現代最前線の棋譜を呼びだして研究する。昭和から平成にかけて、囲碁界の頂点を極めた大名人。情熱は衰えを見せない》
囲碁棋士の小林光一さんが半生を振り返る連載「碁打ちの本懐」。全4回の初回です。(2022年6~7月に「語る 人生の贈りもの」として掲載した記事を再構成しました)
3時に起きてます。昔から早寝早起きだったけど、さらに起きるのが早くなってね。酒はきらいじゃないけど、夜更かしして、飲んだくれてだらだら過ごすより、早く起きて動いたほうがいいじゃない。午前中だけで4、5時間、碁の勉強をしてるんじゃないかな。就寝はだいたい夜の9時。もうまぶたが重くてね、布団に入ったら5分で寝ます。おかげで体調はいい。薬もまったく飲まないし。
老境という感覚はまったくないね。まだまだやれそうな気がするんだ。何十歳はなれた人と打つのもおもしろい。去年、仲邑菫さんと打ってね。なんとか勝ちました。強いね。AI(人工知能)で調べたら、けっこう危なかった。
《人間の棋力をはるかに上回る囲碁AIの出現が、碁の勉強に拍車をかけた》
グーグルがつくったアルファ碁が出現して、2016年に韓国の世界最強棋士をやっつけた。自分が生きてるうちは、人間に勝る囲碁ソフトなんて出てくるとは思わなかった。ところが出てきちゃった。驚きましたね。
それまでとは違う碁を見せられている気がするんですよ。次の一手が当たらないんです。こっちの価値観が通用しない。でもよくよく見ると、相当な手なんですよ。そういう世界を見せられて、おもしろいですよ。棋士なら見たいから。勉強することが一気に増えた。世の中、どんどん変わっていく。こっちもついていかなきゃいけない。
《北海道旭川市の開拓農民の長男坊。働き者の両親に代わって面倒を見る祖母に、思いきり甘やかされて育った》
祖父の平太郎は石川の金沢、祖母のはつは富山の魚津出身です。旭川よりもっと北の美深に入植して、相当苦労したみたい。寒くて作物が育たず、父の弘光が子どものとき旭川に移って来た。街中から5キロほどの永山というところ。そこで僕は育った。周りは田んぼで、隣の家まで150メートルぐらいあった。そのころには米が何百俵も取れて、おやじは会社勤めの兼業農家だったし、経済的に余裕がありました。小学校の行事に着るワイシャツは洗濯屋に出して、のりの入ったやつを着てました。
両親は働いて家にいないから…