藤井聡太に挑んだ豊島将之「自分はわりと一般的な棋士」 動いた時代
藤井聡太のいる時代を、将棋界の歴史として刻む。敗北もかみしめながら、次々とタイトルを防衛した2021年4月から9月までの半年間の記録。
2021年4月1日。東京・将棋会館に、棋戦を主催する新聞社の記者らが顔をそろえた。各棋士の活躍を表彰する将棋大賞の選考会。焦点となったのは「誰が最優秀棋士賞に選ばれるか」だった。
20年度、藤井聡太は7月に史上最年少で初タイトルを獲得し、翌月には二冠(王位・棋聖)に。銀河戦と朝日杯将棋オープン戦でも優勝し、受賞の有力候補だった。最大のライバルは渡辺明。名人・棋王・王将の三冠で、保持タイトル数では渡辺が上回っていた。
13人の選考委員が1人ずつ、推薦する棋士の名前と理由を述べていく。まず、藤井の名前が6人連続で挙がった。その後、渡辺に立て続けに4票が入ったが、最終的には藤井8票、渡辺5票で決着。藤井の初の最優秀棋士賞受賞が決まった。
タイトル数で劣る藤井が支持されたのはなぜか。ポイントは4年連続での受賞となった「勝率1位賞」だった。勝率8割4分6厘は歴代4位の好記録。棋聖戦五番勝負と朝日杯で渡辺との直接対決を制していたことも大きかった。成績の「中身の濃さ」が評価された。
藤井はこの他にも名局賞と名局賞特別賞、独創性が評価される升田幸三賞の特別賞も受賞。後日、発売された専門誌「将棋世界」には、藤井の対局に素晴らしい内容の将棋が多く、どれがどの賞にふさわしいのか、選考委員が迷ったことが紹介されていた。タイトル戦などでトッププロとの対戦が増え、藤井の強さがそれまで以上に引き出されたことの表れとも言えた。
最優秀棋士賞受賞の感想を改めて問うと、藤井は「初めての受賞でうれしく思いました。勝率1位賞を取れたことは自信になりました」と答えた。ただ、こう付け加えることも忘れなかった。「特に賞を意識しているわけではなく、今後の取り組みがより大事だという気持ちに変わりはありません」
5月6日、深浦康市戦
最優秀棋士賞に選ばれた藤井聡太。だが、彼の辞書にも敗北の文字はある。
羽生善治が棋界を席巻した1990年代、後輩として追う立場だった深浦康市は不思議な名言を残している。
「僕と羽生さんが殴り合ったら僕が勝つと思う」
もちろん本当に拳を交えるわけではないが、自分にも王者に勝る何かはあるはずなのだと信じる克己の言葉である。深浦は30代半ばまで対羽生戦で勝率5割前後を維持し「羽生キラー」のニックネームを誇っていた。
2021年5月6日、藤井聡太は第69期王座戦挑戦者決定トーナメント1回戦で深浦と激突した。前年10月29日に元名人の佐藤天彦を破って以降、半年以上も不敗の19連勝中。王位、棋聖に続くタイトルへと疾走する藤井は敗北の予兆のない進撃を続けていた。
深浦の先手で戦型は矢倉。藤井は中盤まで窮屈な立ち回りを強いられた角を巧みにさばくと優勢に。一気の寄せに走っていく。ところが、深浦は薄氷の局面を耐え忍んで反攻に転じると藤井の居玉を左右から挟撃。力強い逆転勝利を飾った。
自身2度目の20連勝を逸した藤井は、肩を落として投了を告げた後に「連勝はあまり意識せずにきました。今日の将棋を反省して次につなげられたらと思います」と力なく語った。対する深浦の顔は、熱闘の余韻のままに紅潮していた。
藤井聡太竜王菅井竜也八段を木村一基九段がLive解説~五冠王と朝日杯覇者が激突 将棋A級順位戦2回戦
ライブ解説は勝負どころに入った夕方午後6時に開始。木村九段からみた藤井竜王、菅井八段、「将棋記者の一日を紹介」など、「観る将」のみなさまも楽しめるイベントを目指します。木村九段や村瀬信也記者への質問も「囲碁将棋TV」で随時、受け付けます。
藤井戦の後、若き日の名言について深浦に尋ねた。
「あの言葉は僕の原点です…
【初トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら