建て替えが決まった東京都国立市の団地で、望まぬ転居を迫られ、途方に暮れる人たちがいる。増える老朽化マンションや団地の対策として国は近年、再生の要件を緩和し、建て替えを促すための政策にかじを切った。その陰で、行き場を失う人への対応が課題として浮上している。
「人生の最後にこんな目に遭うなんて夢にも思わなかった」。3階の窓から桜の木に目をやりながら、女性(78)がつぶやいた。
東京都のほぼ真ん中にある国立市。JR国立駅を南下し、春にはソメイヨシノが満開となるさくら通り沿いに、分譲の国立富士見台団地はある。
1967年の市制施行の2年前に完成した淡いピンク色の団地内には、背の高い木々が立ち並ぶ。団地の完成後、周囲に田畑以外は何もなかった土地に苗木から植えられた。「家さえあれば何とかなるからと、道も舗装されていなかったここを父が新築で買って」
21歳で入居して以来、2歳下の妹と暮らしてきた。約70平方メートルの3LDKで57年過ごしている。父の死後に譲り受け、妹と、入院中の母(96)との3人で共同所有し、1部屋ずつ分け合う。当時は珍しかった洋式の水洗トイレや風呂。ダイニングの黒電話も現役だ。
国立富士見台団地ができた60年代は、高度経済成長で都市人口が拡大し、日本住宅公団が郊外に公営住宅を次々に建設した。同団地もその一つだ。南側の賃貸の団地群をあわせ、65年の完成後に8千人規模の入居があり、前身の国立町の人口は一気に5万人を突破。市の誕生にもつながった。
完成から57年で建物は老朽化した。5階建てでエレベーターはなく、住民の多くが70歳以上だ。バリアフリー化は急務だが、外階段にエレベーターを設置するには高額な費用がかかる。
建て替えの議論が始まり、2017年の建て替え推進決議は7割以上が賛成した。今年4月の建て替え決議では、279人いる区分所有者のうち、法律上必要な5分の4以上の233人が賛成した。
この決議に、女性と妹は反対した。「年金暮らしで、とてもそんなお金は払えないんです」
業者からの見積もりで、建て替え後に同じ条件や広さの部屋に移る場合、取得費用だけで約958万円の追加費用が要るという。入居までの仮住まいの費用も約340万円必要になる。
評価額は2892万円 新たな物件購入は難しく
出て行く場合の自宅の評価額…