地震だけじゃない、津波の仕組み 大昔には高さ4キロの超巨大津波か

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佐々木凌
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 2015年5月3日、東京都伊豆諸島の鳥島近海を震源とする地震が発生した。地震の規模を示すマグニチュード(M)は5・9。八丈島で、最大60センチの津波が観測された。

 気象庁は通常、20センチ以上の津波が予想される場合、地震発生から3分をめどに津波注意報を出す。これは、震源ごとの津波予想シミュレーションの結果をまとめたデータベースをもとにしている。

 だが、この時注意報が出されたのは、実際に津波が観測された後だった。通常、M5~6クラスの地震では観測できるほどの津波は起きないからだ。

 鳥島近海では、1984年から10年に1回程度、地震規模に比べてはるかに規模が大きな津波が繰り返されてきており、予測が困難な謎の津波とされてきた。気象庁は、2007年からこの地域では津波注意報を他の地域よりも小さいMで出す対応をしており、2015年のこの地震以降さらに引き下げた。

 そこで、東京大地震研究所などの研究チームは、15年の地震の際の各地の地震波や津波のデータを元に、どんな地震であればこうした津波を引き起こすのかを再現した。

 その結果、鳥島から北に100キロほど離れた「須美寿(スミス)カルデラ」という海底火山で、火山特有の現象が津波を引き起こしていたと分かった。その名も、「トラップドア断層破壊」だ。

 トラップドア(trapdoor)とは、床や天井などに使われるはね上げ戸の英語。バネなどで戸が上に上がろうとする力がかかっていて、閉じているときは鍵で押さえている。

 今回解明された津波は、これと同様のメカニズムだという。須美寿カルデラでは、継続的にマグマが地下から流入し、上向きの力が働いている。だが普段は、マグマだまりの上の岩盤がまわりの岩石と固着していて「ロック」された状態となっている。

 地震が発生して岩盤のまわりが割れると、ロックが外れる。すると、岩盤が一気に持ち上がって海水を押し上げ、津波を引き起こす。解錠してはね上げ戸が上に開くのと似たことが、海底で起きているということだ。

 トラップドア断層破壊はこれまで、南米・ガラパゴス諸島の地上火山・シエラネグラ火山でも確認されてきたが、海底火山でもおき、津波を引き起こすと明らかになったのは今回が世界で初めてだ。ただ、分かっていないだけで、世界各地ほかの海底カルデラでも、起きている場所があると考えられるという。

 研究の中心を担った、防災科学技術研究所に所属する三反畑(さんだんばた)修・日本学術振興会特別研究員(地球物理)は「この地域の津波警報・注意報の精度向上につなげるだけでなく、世界各地の火山研究にも役立てたい」と話す。

 論文は9月、学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」(https:doi.org/10.1029/2022JB024213)に掲載された。

津波を引き起こす仕組みは他にも様々なものがあります。具体例と共に記事の後半で解説します。

 そもそも津波は普通の波(波…

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この記事を書いた人
佐々木凌
科学みらい部|宇宙担当
専門・関心分野
宇宙、原発・エネルギー、災害・防災