「宇宙兄弟」が描いた難病ALSへの挑戦、ここまで来た 基金が推進
人気漫画「宇宙兄弟」の中で描かれ、作品の大きなテーマとなっている難病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)の研究が、現実の世界で進展している。作品をきっかけに生まれた基金が研究者たちを資金面で支え、病気の克服をめざす推進力になっている。
ALSは、神経細胞が徐々に失われていき、全身の筋肉が動かなくなっていく難病。
作品の中でALSの研究を大きく前進させたのは、宇宙飛行士で医師の伊東せりかだ。父親をALSで亡くし、「この難病を治せるようにしたい」と、国際宇宙ステーション(ISS)での医学実験に取り組んだ。
目標は、「TDP―43」というたんぱく質の結晶化だった。
宇宙に代わり、氷の世界で構造解明
ALS患者の神経細胞では、このたんぱく質が異常な形でたまっている。結晶化し、構造を明らかにすることで、このたんぱく質に作用する治療薬の開発につながる道が開けるはずだ。
無重力状態に近い「微小重力環境」にあるISSで、せりかはいくつもの壁を乗り越え、TDP―43の結晶化を成功させる。その様子を描いた回は2015年に掲載された。作品の中でも特に重要なシーンの一つだ。
現実の世界でTDP―43の構造解析を成し遂げたのは、東京都医学総合研究所脳・神経科学研究分野の長谷川成人(まさと)・分野長(62)らの研究チームだ。
試料を急速に凍結させて撮影する「クライオ電子顕微鏡」という技術を駆使。宇宙空間ではなく、地上のいわば「氷の世界」の活用だった。成果をまとめた論文は21年12月の科学誌ネイチャーに載った。
もともと長谷川さんは、ALSとTDP―43が深く関わっていることを06年に論文で発表していた。
「せりかの思いに共感」 宣言どおりに
せりかの実験シーンは16年…