2020年1月17日、自宅のベッドに横たわった後藤千代枝さん=東京都日野市=は、ささやくように言った。
「さようなら」
夫の秀機さん(80)は最期の言葉だと悟った。妻を見つめて言った。
「さようなら、幸せだったよ」
「私もです」
享年69歳。43年連れ添った夫婦の別れだった。
その年の4月、秀機さんは自室の文箱の中に、緑色の見慣れない洋封筒を見つけた。
仕事関係の無味な封筒の下に、ひっそりと隠れていた。
表には「秀機様」、裏には「千代枝」。
見慣れた字体は妻のものだったが、もらった記憶のない手紙に、心臓をつかまれたような感覚になった。
妻の最後の戯れ
丁寧にのりづけされた封筒を開けると、1枚のカードが出てきた。
『秀機様 ありがとう!今年…