「大川原化工機」国賠訴訟 都と国が控訴 地裁は捜査の違法性認定
生物兵器の製造に転用できる機器を無許可で輸出したとして逮捕、起訴され、その後に起訴が取り消された「大川原化工機」(横浜市)の社長らが、東京都と国に賠償を求めた訴訟で、都と国は10日、逮捕や起訴などの違法性を認めて計約1億6千万円の賠償を命じた東京地裁判決を不服として東京高裁に控訴した。これを受けて同社側も控訴した。
警視庁公安部は2020年3月、同社の「噴霧乾燥機」が輸出規制の対象なのに国の許可を得ずに輸出したとして、外国為替及び外国貿易法違反の容疑で大川原正明社長ら3人を逮捕。東京地検は同月に起訴したが、輸出規制の要件の一つである殺菌性能を立証できないとして、21年7月に起訴を取り消した。
23年12月の地裁判決は、逮捕前に同社の複数の従業員が、機器には殺菌に必要な温度に達しない箇所があると具体的に説明していたのに、それを確認せずに公安部が逮捕したのは違法と認定した。東京地検も起訴前に同様の報告を受けており、勾留請求や起訴も違法だったと判断した。
また公安部の警部補が同社の元役員に対し、殺菌要件の解釈をあえて誤解させた上で供述調書に署名押印させ、「偽計を用いた取り調べ」をしたとして違法性を認めた。
訴訟では、昨年6月、証人として出廷した現役の公安部の警部補が、事件について「まあ、捏造(ねつぞう)ですね」と述べていた。
東京地検の新河隆志次席検事は「判決の内容を精査検討し、上級審の判断を仰ぐことにしたものと承知している。本件で結果として公訴取り消しに至ったことについては、真摯(しんし)に受け止めている」とするコメントを出した。
警視庁公安部は「捜査が法と証拠に基づき緻密(ちみつ)かつ適正に行われるべきことは当然であり、本件に関し、公訴が取り消しとなったこと自体については真摯に受け止めている。今回の件を契機として、部内教養などを更に強化していく」とするコメントを出した。
大川原化工機側の代理人弁護士は「判決の確定が先送りになるのは残念だが、控訴審で冤罪(えんざい)の真相を一層明らかにする」とコメントした。