DV被害者が始めた「夜逃げ屋」 24時間受付、置き手紙を残す理由

編集委員・岡崎明子
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 配偶者からの暴力(DV)やストーカー被害などに苦しむ人の「夜逃げ」を専門に手がける引っ越し屋がある。社長も元DV被害者で、約10人いるスタッフも、ほとんどがかつての依頼者だ。

 社長が、やむを得ない事情での引っ越しを手伝う「夜逃げ屋TSC」を設立したのは23年前。以来、計2500件以上の案件を手がけてきた。

 社長自身、元夫からの暴力に苦しんできた。日常的に暴力を受け、意識不明で救急搬送されたことも何度かある。ある日、「このままでは、いつか本当に殺される」と飼っていた犬と、車に積めるだけの荷物を入れて、夜逃げした。

 夫からの暴力について相談してきた旧知の警察官から「夜逃げ屋やったら?」と言われ、引っ越し屋を始めた。

 現在は1日10~20件ほど問い合わせがくる。そのうち、実際に「夜逃げ」にいたるのは年間120件ほどだ。依頼者の8割が、モラハラを始めとするDVやストーカーに悩む女性だという。

 依頼は24時間受け付けており、希望があれば、両親や友人への連絡の代行や、移転先の住所を知られないためのノウハウ、カウンセリングなども提供している。料金は首都圏内の引っ越しの場合、5万~20万円程度という。

 当日は、引っ越し業者だとわからないような服装とトラックで家に向かう。「夜逃げ」といっても、ほとんどの引っ越しは夫がいない昼間に決行されるという。行方不明者にされないよう、事前に警察に連絡し、置き手紙を残すよう依頼者に求めている。

 「誰も知らない土地で新たな生活を始めることは、本当に大変。そこまでしなくても解決できそうな場合は、アドバイスをして終わり、ということもあります」

 引っ越し屋を始めた当初は、いずれ法律や制度が整備されれば世の中が変わり、「この商売も、必要とされなくなるだろう」と思っていた。だが依頼者は増える一方で、最近はモラハラを訴える人が多いという。

 社長は「逃げることは、ずるくはない。『この人から離れたい』という本心に従うのだから、負けではないんです」と語る。

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この記事を書いた人
岡崎明子
編集委員|セグメント編集長
専門・関心分野
医療、生きづらさ、ジェンダー、働き方
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    仲岡しゅん
    (弁護士)
    2024年7月15日3時31分 投稿
    【視点】

    DV被害者にとっては、何よりも物理的に逃げることが大事です。 ただし、その後の離婚調停・裁判などを見越すと、やり方やタイミングによっては不利になることもあるので、別居を検討している方は、なるべく早めに弁護士に相談し、法的手続の流れなどを把

    …続きを読む