飲食店の「路上営業」横行 新橋では警告760件 コロナ禍機に拡大
繁華街の飲食店が店の前にいすや机を無許可で並べ、「路上営業」するケースが増えている。東京・新橋では、警視庁が直近2年半で指導・警告を計760回したことが判明。外の席は人気というが、行政は安全面を問題視する。コロナ禍での国の施策を機に広がったとの指摘がある。
「また道路に机といすを出している」
7月中旬の午後8時ごろ、JR新橋駅(東京都港区)近くの新橋西口通り。巡回中の警視庁愛宕署員が、1軒の居酒屋の前で足を止めた。
店先には、店とほぼ同じ幅で道路に約1.5メートル張り出した板があった。その上に6人分の机といすが並べられている。
警察官は男性店員に、「道路だから板を外して机といすも片付けてと、前にも言ったよね」と注意した。店員は謝りながら、「板はすぐには外せないので、机といすだけ片付けます」と言い、2人で片付けた。
愛宕署がこの日、道路交通法違反(道路不正使用)で指導・警告したのは15店舗。ほとんどが何回か注意してきた店だ。署幹部は「週末はもっと違反している店が多い」と言う。
「災害時すぐ逃げられない」通報・相談年100件、警告は増加
地元住民らから「道路がふさがれ、災害時にすぐに逃げられない」「景観が悪い」などの苦情が相次ぐ。署への通報や相談は年に100件ほどあるという。
苦情を受け、署と区は一昨年から本格的に対策に乗り出した。署は週4回ほど繁華街を巡回し、違反した店には指導・警告、誓約書の記入などを求めてきた。強制力はなく、注意しても翌日には設置される。件数は2022年約220件、23年約340件、今年6月までで約200件と年々増加している。
区は今年度予算に約3300万円を計上し、路上営業の取り締まり専従部隊を立ち上げた。平日を中心に夕方から午後9時まで巡回している。全国でも珍しいという。
4月に40~50件だった指導・警告の件数は、6月には10~20件と数字上は減少した。ただ、巡回時間外の午後9時以降に机を出し始める店舗もあり、根本的な解決にはなっていない。
新橋一帯の連合町会副会長で喫茶店を営む大塚健太郎さん(82)は「このままでは大きな災害や火災が起きても救急車や消防車が通れない。踏み込んだ対応が必要ではないか」と話す。
「新橋の文化」飲食店長 路上営業やめると売り上げ減
これに対し、20代の男性店長は「新橋の文化だ」と主張する。8年ほど前から8人分の机といすを店先の道路に出している。電話での予約では「外の席は空いていますか?」と聞かれることが多く、外の席から埋まるという。
2年前から指導を受けるようになり、当初は路上営業をやめていたという。だが、周囲の店は翌日には路上に机を出し、客はその店に流れてしまい、売り上げは月100万~200万円落ちた。それ以降、指導に従わなくなった。災害時の対応については「何か起きた時には、すぐに机といすを片付けられるから大丈夫」と話す。
別の店の30代の男性店長は「他の場所でも路上営業はやっている。店の前の道路は夜になると通行規制されて車が通れなくなるから安全上も問題ない」と話す。
道路の3分の1ほどを占有しているが、通行人から苦情を言われたことはないという。「警察や港区はごく一部の人の苦情を真に受けている。ほぼ毎日のように店に来ては、机を撤去するまで居座るのは営業妨害だ」と主張する。
署の捜査幹部は「これまで指導・警告を繰り返してきたが、改善されない。今後立件することも視野に検討している」と語る。区まちづくり課の大久保光正課長は「区民の安全安心を守るためには強制力のある命令を出す必要もある」と話す。
コロナ禍を機に「路上営業」が拡大
愛宕署によると、新橋で路上営業する飲食店は、コロナ禍前までは数店だった。2022年ごろから道路の半分まで机を出し、営業する店が現れ始めた。
このころ、国は店での密を避けるため、特定の地域で道路にテラスなどを設置しやすくする制度を始めた。道幅の狭い新橋は対象ではなかったが、港区はこの制度の勘違いも路上営業が広がった要因と分析する。
同様の問題は他の地域でも起きている。
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