「あと5分しか…」面会禁止の病院からの電話 一人で逝った父の無念

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編集委員・岡崎明子
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 鈴木智草さんの父親(享年84歳)は、家族の誰にもみとられず、東京都内の病室で息を引き取った。今年2月3日のことだ。

 鈴木さんは仕事の関係でアメリカに住んでいる。母や姉から「もう長くない」と連絡を受け、2月3日午後に緊急帰国した。そのまま空港から病院へ直行するつもりだったが、面会は認められなかった。

 なぜなのか。

        ◇

 父親に異変が起きたのは、数年前のことだった。認知症のような症状が出始め、外出先で転ぶことも増えた。大学病院で検査を受け、昨年1月、「進行性核上性まひ」と診断された。脳のさまざまな部分の神経細胞が減り、運動機能に支障が出る難病だ。いずれ寝たきりになると説明されたが、症状の進行はゆっくりだと言われ、家族は見守っていた。

 昨年8月、父親は通っていたデイケアでいすから落ち、脊椎(せきつい)を圧迫骨折した。救急車で都内のA病院に運ばれ、そのまま入院した。

 A病院は500床弱の中規模病院で、都の二次救急医療機関にも指定されている。面会は予約制で、週1回、1回につき15分という規則だった。母親によると、毎回、スタッフが車いすに乗せた父親を病棟の一室に連れてきて、15分経つと「時間です」と病室に連れ帰るという。

 鈴木さんは仕事を調整し、10月に9日間だけ帰国した。病院の規則から言えば、その間に最大2回、計30分しか父親に会えない。

 「娘がわざわざアメリカから帰国するので、余分の面会を認めていただけないでしょうか」

 母親が事前に病院と交渉したが、認められなかった。

 父親はその病院に約3カ月間入院し、リハビリを続けた。だが歩行機能は戻らず、退院と同時に有料老人ホームに入居した。

 この老人ホームはいつでも面会することが可能で、家族もホッとしていた。

 だが穏やかな時間は、長くは続かなかった。

近づく父の死期 面会禁止「例外は認められない」

 入院中に病気が進行した父親…

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この記事を書いた人
岡崎明子
編集委員|セグメント編集長
専門・関心分野
医療、生きづらさ、ジェンダー、働き方
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    白川優子
    (国境なき医師団看護師)
    2024年9月18日17時49分 投稿
    【視点】

    規則をガチガチに固め、外部接触は最低限にし、次々に目の前に湧き出てくるタスクに専念しないと回らない、つまりゆとりがないのだと思います。忙しすぎて患者さんを仕事のタスクとしてしか捉えていないのだと思います。 看護は本来、1人の患者さんに対し

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    磯野真穂
    (東京工業大学教授=応用人類学)
    2024年9月23日16時10分 投稿
    【視点】

    健康に関することで社会がパニックに巻き込まれると、日本社会は画一的な行動をとります。それを私は「和を持って極端となす」と名づけました。パニックを鎮めるために取られた一時的な対応が、年単位でダラダラと続くということです。 いまだに続く、医療

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