第3回「二つの大地」にほんろうされる日鉄 立ちはだかる「国家の論理」
米中が震源地となり、内向きな産業政策が幅をきかせるようになった。国家が前面にせり出し、対立を深める「二つの大地」のはざまを、日本企業はどう生き抜くのか。
不動産不況が続く中国で余った鋼材が、安値で日本に入りつつある――。日本製鉄社長の今井正は、9月下旬の記者会見で危機感をあらわにした。
中国から日本への鋼材の流入は今年1~8月、去年より15%増えた。
「国内のサプライチェーンの維持や、脱炭素に向けた原資の確保が難しくなりかねない」
中国の粗鋼生産量は年10億トン超で、日本や米国の実に12倍前後にあたる。うち1割が輸出され、世界の市況を押し下げる。高い関税でブロックする米国の後を追うように各国も手立てを講じつつあり、日本も続く可能性がある。
礎を築いた信頼から対立へ…中央支配強める中国
日鉄と中国の縁は深い。それどころか、半世紀近く前から中国鉄鋼業の礎を築いてきた「当事者」とも言える。
ソ連の脅威を念頭に米中が接近し、日中国交正常化も1972年に実現した。中国副首相だった鄧小平は78年、君津製鉄所(千葉県)を訪れ、当時の新日本製鉄会長、稲山嘉寛に頼んだ。
「これと同じ製鉄所をつくってもらえませんか」
すでに米USスチールを上回る世界最大の鉄鋼メーカーになっていた新日鉄は、全面協力で応じた。中国から延べ3千人の研修生を受け入れ、日本からも技術者ら延べ1万人を送った。
上海に完成した宝山製鉄所は改革開放路線を支え、山崎豊子の小説「大地の子」の舞台である製鉄所のモデルにもなった。
中国との関係強化は、日鉄の利益にもつながった。中国は2001年、米国の後押しを受けて世界貿易機関(WTO)に加盟する。自動車市場は急成長し、宝山鋼鉄や新日鉄などの出資で04年に発足した合弁会社「宝鋼新日鉄自動車鋼板有限公司」の車向け鋼板の現地シェアは、宝鋼と合わせて5割超に達した。
宝鋼との友好協力30年を祝った07年の行事。新日鉄社長の三村明夫は買収を仕掛けてくると警戒していた当時の最大手、欧州アルセロール・ミッタルに言及した。「安定的対抗軸をつくるには、信頼できるメーカーとの提携が大事。宝鋼とは30年の信頼関係がある」。中国企業との深い関係が、買収リスクへの備えとなった時代だった。
それから時は流れた。日鉄と…
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