登記の義務化、所有権放棄…「未熟」な土地所有制度と民主主義の未来
相続時などに登記簿の記載が放置され、現在の所有者にたどりつけなくなった「所有者不明土地」問題をきっかけに、土地所有にかかわる仕組みが変わりつつあります。民法や開発法学が専門で、土地所有の歴史にも詳しい慶応大大学院法務研究科の松尾弘教授は、大きな転換点にある現状を「制度が成熟していくプロセスの一つ」と指摘したうえで、土地の問題を考えることは、社会の成熟化にもつながるといいます。
奨励された土地取引の活性化
――2024年4月の相続登記の義務化など、土地所有に関する制度改正が続いています。
日本の土地所有制度は、まだ歴史が浅いのです。特に、土地の私的所有権は制度が始まって150年ぐらいしか経っておらず、完全に成熟はしていません。それが、所有者不明土地問題の根源的な原因だと思います。
――幕府と藩が土地と人民を朝廷に返したのが大政奉還(1867年)と版籍奉還(1869年)。そのあと1871(明治4)年ごろから、各地で「地券」が発行されるようになります。
地券の発行は、私人に土地の所有権を認め、そこに価値をつけ、税金をかけようという発想でした。土地所有権の始まりは徴税が目的だったのです。米で納める租税から、現金で納める土地税に変えるためです。
そのため、規制を少なくして土地取引を自由にし、活性化することが奨励されました。価格が上がれば税収も上がる。政府の税収の8~9割が地租だった時期もあり、ある面では成功しました。ただ、公共の利益のために土地の所有や利用を規制する仕組みの導入は遅れました。公法的な規制の動きが出てくるのは、明治末期から大正時代にかけてです。
――その後も、日本社会は土地を持つことの価値を重視してきたように思います。
取引自由で利用規制も緩いため、日本の土地は投資の対象になりやすいわけです。経済成長も続いたので、土地は価値が下がらない財産と考えられ、景気がいいときには地価も大きく上がりました。さらに、利用価値があまりない土地についても取引されたり、乱開発が進んだりという面もありました。
土地の管理がコストに
――バブルがはじけ、高齢化と人口減が進んだいまは、一部の都市部をのぞけば土地の価値が下がる時代ですね。
そうなると、土地を保有する…
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