戦前も吹き荒れた大蔵省批判 蔵相は射殺、その後の日本が進んだ道は

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デモクラシーと戦争⑤ 失墜する財務省の「権威」

 「7兆~8兆円の税収減をどう穴埋めするのか」「富裕層ほど恩恵が大きいのではないか」

 年末の税制改正論議をめぐる国民民主党の記者会見。提唱する所得税の課税最低ラインの引き上げに疑問が呈されると、玉木雄一郎代表は、「それ財務省の説明そのままですね」と切り捨てた。

 ユーチューブには、会見のやりとりについて、「完全論破」「圧勝」といった投稿が相次いだ。

 国民民主と主張は大きく異なるれいわ新選組も、財務省を敵視する姿勢では一致する。れいわ高井崇志幹事長は、「政権交代したら、真っ先に財務省を解体する」と公言する。

 財政均衡主義を掲げる財務省は、「カルト教団化」している。その教義を守る限り、国民生活は困窮化する一方になる――。経済アナリストの森永卓郎氏が昨年出版した「ザイム真理教」は、こうした内容が話題となり、21万部超のベストセラーになっている。

 財務省の公式X(旧ツイッター)あてには、「国民の敵。いつか罰しなければなりません」「あまり勘違いしてるとロクな死に方しないから気を付けた方がいいよ」といった書き込みが相次ぐ。

100年をたどる旅―未来のための近現代史

 世界と日本の100年を振り返り、私たちの未来を考えるシリーズ「100年をたどる旅―未来のための近現代史」。今回の「デモクラシーと戦争」編第5回では、戦前の日本を事例として、「財政」とデモクラシーの関係を考えます。

「われ富士山」存在感は過去のこと

 2022年末に防衛増税を決めた直後には、主計局長だった新川浩嗣氏の殺害予告電話が財務省にあった。心労がたたってか、新川氏は一時耳が聞こえづらくなった。

 省内の士気の低下は否めない。ある中堅幹部は個人のSNSに、「昨日今日は屈辱的なことが多かったです」と書き込んだ。「複雑な気分のときの一曲」に、中島みゆきの「世情」を挙げた。

 ♪世の中はいつも変わっているから 頑固者だけが悲しい思いをする

 財務省の前身の旧大蔵省は、予算編成権を通じて霞が関をコントロールし、政権の政治日程をも描いてきた。だが、「われ富士山、ほかは並びの山」を自任した存在感は、過去のことだ。

 1995年を境に生産年齢人口が減少に転じると、日本は低成長が当たり前となった。巨額の経済対策が繰り返されたうえに、高齢化社会の到来で、社会保障の支出が右肩上がりで増えた。

 借金が雪だるま式に膨らむのを抑えようと、歳出カットと増税を唱える財務省は、経済低迷の責任を問われ、批判の矢面に立たされた。

 戦前も大蔵省は、世論の支持を得られませんでした。当時の批判を振り返ると、いまと酷似する論理がみえてきます。

■「一言にしていえば四面楚歌

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    明石順平
    (弁護士・ブラック企業被害対策弁護団)
    2024年12月30日14時32分 投稿
    【視点】

    財務省悪玉論はただの八つ当たりである。 高齢人口の増大に伴い、高齢者に関係する社会保障費(年金、医療、介護)は当然増えていく。だから増税は避けられない。しかし、財政に責任をもたない野党が租税嫌悪感情を煽り続け、与党も議席を失うのを恐れて増

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    加谷珪一
    (経済評論家)
    2024年12月31日12時1分 投稿
    【視点】

    戦争直前の日本でも、今と同様、財政膨張に対する危機感は存在していましたが、「日本はインフレにはならない」など、理論を無視した声高な意見によってかき消され、政策に反映されることはありませんでした。  戦前の日本は、大正バブルの崩壊をきっかけに

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