(後藤正文の朝からロック)生成AIに問われた語彙力

後藤正文の朝からロック

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 生成AIについて学ぶ合宿に参加した。参加者それぞれが、自宅から思い思いの時間にオンラインミーティングに参加する方式で、様々な講義を聴いたり、グループに分かれて対話や作業を行ったり、時には本業の仕事場に行くために中座することも可能という、自由でユニークな合宿だった。

 僕はミュージックビデオを制作するグループに加わった。まずは画像生成AIを使って、参加者それぞれが「時間とは何か」という抽象的なテーマに沿って画像を生成してゆく。それらを集めて動画として編集しようというのが、ビデオ制作のコンセプトだった。AIへの指示をまとめたグループ共通の言語のあとに、それぞれが「時間」から連想する言葉を打ち込む。数十秒後には、画面に複数の画像が現れる。たった一言で生成される画像のイメージがガラッと変わったり、いくつかの言葉を追加しても変化が乏しかったり、AIが行う予想外の反応が面白い。

 最も苦労したのは、「時間」という言葉からストレートに連想できる時計や廃墟(はいきょ)といったイメージから、どうやってAIを遠ざけるのかということだった。「時間とは何か」というテーマに対する答えを、はっきりと示すのは難しい。「時間」という概念に対して自分が抱く辿々(たどたど)しい言葉の連なりから、何か新しいイメージをAIが画像として出力してくれるかもしれないと期待していた。しかし、選んだ言葉のいくつかが、単純なイメージを引き寄せてしまう。

 途中からは、これまでに自分が揉(も)んできた時間に対する考えだけでなく、語彙(ごい)力を問われていると感じた。自分の考えから選び出した言葉が、AIによる画像生成に役立つとは限らない。どのような言葉に言い換えれば、コンセプトを崩さずにAIから新しいイメージを引き出せるのか。言語から逃れられないことが新鮮だった。(ミュージシャン)

 ◇毎月第4日曜日に掲載します。

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