第4回座ったまま「食べられない…」うつむく私、完食指導は今でもトラウマ
幼稚園のときの完食指導がいまでもトラウマ――。食の現代史が専門の京都大人文科学研究所准教授の藤原辰史さんは、そう語ります。「食と教育のもっと幸せな結びつき方」について、聞きました。
――相次ぐ給食の完食指導、どう思われますか。
嫌いなものを残すことを「罰」として、掃除の砂ぼこりが立つ時間まで席に残される。先生に小言を言われ、友達に白い目で見られながら、責め立てられる――。
まるで大人公認のいじめのようですよね。
無理に口を開けて食べ物を突っ込むというのは、私は体罰だと考えています。
実は私も苦労しました。いま、何でもほぼ食べられるのは「給食の体罰」のおかげかもしれませんが、ナスの煮浸し、グリーンピースご飯……。子どものころは苦手なものがたくさんありました。
幼稚園の給食の光景は今でも忘れられません。えんじ色の弁当箱に入っていて、ふたを開けると、もういかにも自分が嫌いそうなおかずがあって。
座ったまま「食べられない、食べられない……」とうつむいていました。
だんだん休み時間がなくなっていき、みんなが遊びに出て行って、先生が私をじっと見ていて。
その空気がつらかった。
さいわい、私自身は無理やり口に入れられることはありませんでしたが、今もトラウマです。
暴力で従わせること
その完食指導のトラウマを「給食の歴史」(2018年、岩波新書)の冒頭に書いたのですが、読者の方から抗議の手紙が届きました。
その方は東京大空襲を経験されていました。「戦争で飢餓の体験をしてきて、給食はあるだけでありがたかった。戦時中の人の気持ちをくみ取るべきだ」と。
私たちは戦後、いつの間にか飽食の時代を生きるようになりました。
全国の保育園で今年に入り、完食の強要や、給食を無理やり口に入れるなどの不適切な指導が相次いで発覚しました。子どもの心に傷を残し、大人になってからも影響を及ぼすことがある「完食指導」。何が問題なのか、専門家とともに考えます。
「目の前のものを食べないと…
- 【視点】
子どもの頃は、食事が楽しいものだと思ったことはなかった。給食で食べられないものを完食しないといけないと言われたときは、ハンカチに吐き出してこっそり捨てていた。牛乳が嫌いで、いつも無理して飲んでいた。大人になった今も、牛乳を飲むとお腹が痛くな
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