人権侵害、沈黙する住民 新疆ウイグル自治区の「安定」は誰のためか
食堂の店先で、陽気そうなウイグル族の男性が大きな肉の塊を切っていた。手元の包丁には鎖がつながっている。
何のために? そう尋ねると、おどけたように包丁を振ってみせた。「5、6年前から」こうなっているのだと言うが、それ以上は何も話さなかった。6月末、中国の新疆ウイグル自治区西部カシュガル市を訪れたときのことだ。
15年前の7月5日、自治区の区都ウルムチ市では多数派の漢族と少数民族のウイグル族が衝突するウルムチ騒乱が起きた。漢族とウイグル族の対立感情が高まり、中国政府は少数民族への締め付けを強めていった。
現在はAI(人工知能)を駆使した監視が発達し、当時よりさらに厳しい情報統制が敷かれている。
人びとはいま、どんな思いで暮らしているのか。10年あまり前から何度も新疆ウイグル自治区を取材してきた私は、6月下旬~7月上旬に自治区の各地を訪ねた。
カシュガルの肉屋でもウルムチの果物屋でも、あちこちの店舗で、刃物が鎖やひもで台に固定されていた。
これは当局による「テロ対策」の措置とみられている。かつて、ウイグル族が容疑者として関わったとされる暴力事件が相次いだことが背景にある。
しかし、鎖の理由を語ってくれる人はいなかった。ほかにも、「沈黙」が至るところで取材に立ちはだかった。
タクシー運転手「録音されているから話せない」
あるタクシー運転手のウイグ…
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