「ネット見る人は投票に行かない」 選挙のプロの常識変えた石丸現象

有料記事民意のゆくえ 現場から

中村英一郎 二階堂友紀 後藤遼太
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 「今日、新橋行ける?」。東京都内の男性(36)は都知事選の告示前日の6月19日、X(旧ツイッター)でフォローし合っていた相手から、石丸伸二氏の街頭演説に行くよう頼まれた。

 その日から、登録者数10万人のユーチューブチャンネルの「撮影担当」になった。

 過去にタレントの切り抜き動画を配信していたことはあったが、政治家は初めて。当時は無職で、収入を得ることが主な目的だった。

 「雇い主」は東日本の男性で、石丸陣営とは無関係のようだった。石丸氏の演説をスマホで撮影し、動画をファイル転送サービスに上げる役目を担った。1回につき、2千円がすぐに振り込まれた。

 動画がアップされると、台本担当が編集方法を指示。それをもとに編集担当が切り抜き、3時間以内に「納品」する。一連の手順はマニュアルに定められ、テロップのフォントや大きさ、色まで細かく指定されていた。

 投開票前日の7月6日まで、40回ほど撮影した。やり取りはトークアプリで、誰とも会うことはなかった。

ネット選挙「意味がない」が一変

 東京での知名度が低かった石丸氏だが、街頭演説には数千人が集まった。その様子を見て、選対事務局長を務めた選挙プランナーの藤川晋之助氏(71)は「地殻変動が起きる」と感じたという。

 もともと自民党田中角栄元…

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この記事を書いた人
中村英一郎
ネットワーク報道本部|首都圏ニュースセンター
専門・関心分野
首都圏のニュース
二階堂友紀
東京社会部
専門・関心分野
人権 LGBTQ 政治と社会
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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2024年12月17日10時37分 投稿
    【視点】

    「世界で普遍的に起きているメディア環境の変化が、公職選挙法に規定された日本の選挙形態においてどう出力されるか」という問いとして読んだ。 日本の公職選挙法は、文書や演説、個別訪問、テレビなど伝統的な伝達手法については厳しく制限してきた。これ

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  • commentatorHeader
    西岡研介
    (ノンフィクションライター)
    2024年12月18日10時35分 投稿
    【視点】

    「今の状況は、SNSだけが原因ではない。感情や情動に左右される『ファスト政治』が加速し、政治家も有権者も忍耐を失ってきた。即断即決を避け、答えの出ないあいまいさに耐える力が求められている」  佐藤卓己・上智大教授(メディア史)のこの言葉が、

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