黒沢咲は鳴かない、麻雀は芸術だから 二階堂亜樹に学んだ「ドラマ」

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 子どもの頃から、花を眺めるのが好きだった。美しいものにひかれ、心を動かされる感性が備わっていた。

 勝負に負けることは、なによりも嫌いだった。泣いて悔しがり、勝つまでやめない子どもだった。

 美しさと勝利。相反するようにもみえる二つを、雷電・黒沢咲は勝負の世界に身を置いて追い求めてきた。

 大学2年で初めて牌(はい)に触れた時から、麻雀(マージャン)に美しさを見いだし、魅入られてきた。

 自分で選んだ牌で役ができ、ドラがやってきて打点が上がる。麻雀は一期一会。局が進むたびに新鮮な美しさを見つけられた。アガると心が高ぶった。理不尽なことが起きても、それが楽しかった。

 黒沢の目には、34種類全136枚の牌がただの記号の羅列ではなく、絵画のように映っている。

 手元に美しい牌を集めて、真っ白なキャンバスに理想の絵を描きあげていく。麻雀はその繰り返しなのだ、と。

 「きれいな牌で作ったきれいな手って、絵とかお花みたいな特有の美しさがある」

 大学時代、毎日のように繰り返していたのが麻雀と実験だった。

 当時、理工学部に入り、化学を専攻。条件をそろえて比較・検討し、理屈のある結果を追い求める世界にいた。

 実験結果が出るまで時間がかかるとき、白衣を着たまま雀荘に打ちに行っていた。

 牌の積まれ方、4人の切り順、鳴きのタイミング。全く同じ条件がそろうことはまず起こり得ない。理屈だけでは予想しきれない、理不尽な異世界に脳を浸した。

 相手との点差や欲しい牌が出る確率を脳内で計算し、手牌の構成を考える。競技麻雀には常に数字がつきまとう。

高打点を追求し、見る者を熱狂させてきた黒沢咲にも、応援されるプロとは?と考えた時期がある。ヒントになったのは、全くスタイルの違う二階堂亜樹の姿勢だった。黒沢が腹をくくり、生き方を決めるまでの物語。

 だが、「麻雀は確率のゲーム…

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この記事を書いた人
前田健汰
文化部|麻雀担当
専門・関心分野
麻雀、演芸、演劇

連載情熱Mリーグ ~麻雀プロたちの物語~

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