第24回「人身取引」批判された技能実習制度 岐阜の縫製業界は悪習を変えた
業務用ミシンが勢いよく動くと、裁断された布が服に仕立てられ、次々と積み上がっていく。岐阜県羽島市の縫製会社ヴェルデュール。ミシンを踏む、ほぼ全員が技能実習生だ。
ベトナム人実習生のデイン・リック・タックさん(39)は「最初は不安だったけど、今はこの会社に来られてよかった」と笑った。
最初の実習先だった愛媛県の縫製工場では、基本給も残業代も支払われなかった。一緒に働いた実習生11人の未払い賃金は総額で少なくとも2500万円を超えるが、全額を取り戻せる見通しはない。
宿舎も壁に穴が開き、雨が降ると部屋が水浸しになった。隙間風も冷たかった。支援団体などの協力で、2022年11月に岐阜にある今の工場に転籍した。「ここは残業代も払われるし、宿舎もきれい」
賃金不払い、最低賃金を大幅に下回る時給300円などの残業代などが横行。月200時間に迫る長時間残業や、粗末な宿舎での過酷な生活、パスポート取り上げや外出禁止などの生活の監視、経費や保証金の違法な徴収……。技能実習生をめぐっては、人権侵害がくり返されてきた。米国務省からは、制度が「人身取引」と批判された。
中でも岐阜の縫製業は、外国人支援団体などの間で劣悪なことで知られた。
「実習生は安価な単純労働者ではない」
「岐阜の縫製業は、不正件数ばかりでなく、悪質な事案が多かった」。取り締まる岐阜労働基準監督署のある監督官は話す。だが、近年、変化を感じているという。17年に技能実習法が施行され、外国人技能実習機構による監査が厳しくなったことも一つの理由だが、それだけではない。「いまも不正はある。だが、法律を守り、状況を変えようとする経営者や監理団体が現れ、二極化が進んでいる」
タックさんを受け入れたヴェルデュールでは、賃金は岐阜県の最低賃金の時給910円を上回り、残業代も当然支払われる。残業時間は規定の範囲内で、長時間残業は認められない。会社が用意する宿舎は、工場近くのアパート。エアコンなど家電付きの2LDKに4人が暮らす。他の部屋には日本人も住むきれいな建物だ。
近藤知之社長(49)は「外国人実習生は安価な単純労働者ではない」と話す。「適正な賃金を払い、実習生にだけ必要な宿舎費や管理費なども含めれば、人件費は日本人の1.5倍はかかる」。それでも、実習生を頼るのは、「即戦力の彼女たちがいなければ人手が足りず、仕事が回らないから」だ。給与を上げて求人しても日本人労働者の応募はない。
技能実習制度を悪用する事件が相次いだ岐阜の縫製業に変化が訪れています。引っ張っているのは、実習生と企業の仲介役にあたる、ある「監理団体」でした。「クリーンな企業」しか加入を認めず、コンプライアンスを徹底します。後半では、その理由に迫ります。
岐阜は日本有数の縫製業が盛…