戦争や紛争、事件事故、不祥事……。容赦なく飛び込んでくるニュースの波を避ける「ニュース離れ」「ニュース断ち」、そして「ニュース疲れ」という言葉も生まれています。私たちは、どうしたらよいでしょうか。日本ストレス学会や日本ポジティブサイコロジー医学会の理事でもある心療内科医の海原純子さんにヒントを聞きました。
――日ごろ、どのようにニュースに接していますか。
スマートフォンで見ることが多いのですが、毎朝、新聞にも目を通します。私はジャズ歌手もしているので、音楽を聴いたり、ボイストレーニングに使ったりして、スマホは1日に3時間くらい見ていますが、そのうち、ニュースを見るのは1時間くらいですかね。
――どういうニュースをよく見ますか。
最近でいえば、男女の就業率や賃金格差について研究し、ノーベル経済学賞を取った米ハーバード大のクラウディア・ゴールディン教授のニュースです。私も男女の格差や女性医師らの継続就労について調査・研究しているので、特に目を引きました。
ニュースの発信者に必要な認識は
――最近、世界でニュース離れが指摘されているようです。
戦争、災害、事件、不景気など、暗いニュースが多すぎますね。私自身、たまにその場でスマホを見るのをやめることもあります。
今はニュースが伝わるスピードが速いですし、何よりも、ネットやSNSを通じて伝わる現場の映像のリアル感が昔とは全然違います。
昔は記者が撮った写真が翌日あたりの紙面に載りました。今は、ミサイルがどんどん飛んでくるところを一般の人が動画で撮影してSNSで流しています。
日本では今、性加害のニュースがあふれています。戦時下の性被害を研究している友人がおり、大学で講義をしているのですが、性被害の話を聞くと固まってしまう学生がいると聞きました。実際に性被害を受けたことがある人なのかもしれません。だから、授業に出たくない人は出なくていいと、事前にアナウンスするそうです。
そのような傷や痛みが表れ出てしまうことがあるという認識が、ニュースの発信者に必要ではないでしょうか。
ウクライナの惨状をテレビで見て、沖縄戦の記憶がよみがえって、すごく嫌な気分になるという高齢の方もいるそうですが、その感情を鎮めるのは大変だと思います。
――ニュース報道に自分の境遇を重ねてしまうことがありそうですね。
「共感疲労」という言葉があります。医療・看護や介護の現場で使われることが多いのですが、患者さんなどの相手に共感することによって、自分自身が疲れてしまうというものです。
ニュースに接して、そういうことが起きてもおかしくありません。ニュースの現場にいなくても感情が伝播(でんぱ)し、共感をもたらすことはあり得ます。
――つらいニュースを前にして、私たちはどうしたらよいでしょうか。
ニュースを一人きりでは見ない
スマホの電源を切ることもできますが、そうすると世の中の動きが分からなくなってしまいます。そうした中で、いざ大きなニュースが起きたとき、それに対する耐性や消化力がなくなっているとまずいと思います。
媒体を選ぶのも一つの方法です。新聞紙面だと映像を見なくて済みます。やはり、ネットやSNSの映像は五感全部に飛び込んでくるような感じですから。
また、ネットやスマホのニュースを夜には見ないで、日中に見るようにするのも一つのやり方かもしれません。
ニュースを一人きりで見ないというのも考えられます。友人や知人がいっしょにいれば、自分だけが傷ついているのではなく、みんなもつらいんだと思うことができて、ずいぶん違うのではないでしょうか。
自分一人きりの場合、喫茶店など誰かがいるところで見るのも、いいかもしれません。隣のお客さんは世間話をしていて、「ああ、自分は安全なところにいるんだ」と状況を客観視できて、安心できそうです。シリアスなニュースを見るときは、シチュエーションを選ぶことが必要です。
「ながら見」も、少し気が散っていいかもしれません。また、見出しを見て嫌そうなニュースだと思えば、クリックしないのも手でしょう。見出しを見るだけなら、記事全文を読むよりは深手を負わずに済み、しかも、世の中で何が起きているかが何となくはつかめます。
――このところのニュースを見ていて、私も何となく気分が暗くなっています。
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