井上荒野さんに聞く①
2021年11月9日に亡くなった瀬戸内寂聴さんは愛に生きた。51歳で出家した理由の一つは、作家の井上光晴さんとの不倫関係を断ち切るためだ。光晴さんの長女で直木賞作家の井上荒野(あれの)さん(61)は、寂聴さん、父、母の関係を『あちらにいる鬼』(朝日文庫)に書き、映画化された。寂聴さんの一周忌に合わせ、荒野さんに聞いた。
現在公開中の映画「あちらにいる鬼」の原作小説を書いた井上荒野さんのロングインタビューです。父・光晴さんと寂聴さんの不倫をどう受け止めているのか、じっくり聞きました。10回に分けて掲載します。
――寂聴さんは光晴さんより四つ年上です。亡くなって1年が過ぎました。
全然実感がなくて、京都に行けば、まだ寂庵(じゃくあん)にいるような気がします。今でも電話がかかってきて、「あれのちゃ~ん」と、あの高い声で言われるような感じがします。
――寂聴さんと光晴さんが出会ったのは1966年、講演旅行がきっかけです。光晴さんの思い出を教えてください。
変な父ではあったんですけど。土曜になると夕方に出かけ、次の日に帰ってくる。ずっとそうだったので、物心がついたときから「父親って、そういうもの」と思ってきました。
子どものとき、「どこに泊まっているの」と聞いたら「バーに泊まっている」と言われました。だから私はずっと、バーは泊まれるところだと思っていました。自分がバーに行くようになって、泊まれないことがわかるんですけど。20代半ばぐらいに、やっとわかったのかな。
父は複雑な家庭で育ったので、幸せな家庭を作ってしまったことにコンプレックスがあったのだと思います。罪悪感のようなものを抱いていたのかもしれません。
――どういうことでしょうか。
記事の後半では、井上荒野さんの父・光晴さんが寂聴さんとひかれあった理由が語られます。
たとえば、家族で楽しくご飯…
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