意外だった「説明できない賃金格差」7% メルカリが突き止めた要因
「説明できない賃金格差(Unexplained Pay Gap)」。企業などでの理不尽な不平等を表したこの状況が近年、世界的に注目され、国際労働機関(ILO)も問題視しています。
フリマアプリ大手のメルカリは社内の状況をデータ分析し、グローバルな許容値を超える約7%に上っていたと9月に公表、必要な賃上げをしました。ジェンダー平等に向けて仕組みや運用を改善してきたのになぜ?と原因を探ると、世界的に男女の賃金格差が大きい日本の構造問題が意外な形で浮かび上がりました。
主導したのは、同社経営戦略室I&Dチームマネージャーの趙愛子さん(45)。かつて派遣社員として格差を体感した経験も踏まえた取り組みや思いを、インタビューで詳しく聞きました。
――男女の賃金格差は、管理職の女性が少ないためだと一般には説明されがちです。そうした「説明がつく格差」ではなく、同じ等級や職種なのに差がある「説明できない格差」が、社内で約7%あったと公表しました。どんなきっかけで、どのように進めたのでしょうか。
きっかけはスイスの認証プロセス
メルカリは世界中の多様な人材が活躍できる環境を作ろうと進めています。その一環として2022年12月、ジェンダー平等の取り組みを評価するスイスの団体「EDGE認証財団」の認証を取得しました。日本企業では初めてだと聞いていますが、監査プロセスにおいて、男女間で「説明できない賃金格差」があるかどうかを重回帰分析で明らかにする必要がありました。結果と要因の因果関係を関数で明らかにする統計手法です。そうして、基本給などに性別や職種などの変数を加えて、人事のアナリストに分析してもらいました。
――約7%という結果を見て、どう思われましたか。
非常に意外でした。
そもそも、「『説明できない格差』なんて、うちにはないでしょう」という声が社内でも上がっていたんですよ。ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)に力を入れ、ジェンダー平等のための制度や運用の改良を重ねてきましたから。
――例えばどんな取り組みでしょうか。
無意識の偏見(バイアス)をなくすための研修やワークショップをマネジャー以上は受講必須としているほか、査定で高い評価を取ったり次の等級に上がったりする人の男女比が偏っていないかも毎回モニタリングし、評価会議にも人事が入り、バイアスを取り除く議論のサポートをしています。
なので、「説明できない格差」なんて起こり得ないんじゃないかと私も思い、原因がすぐには思い浮かびませんでした。経営陣も意外だという受け止めでした。
でも、それもバイアスなんですよね。
そこで、この差がどこからどう生じているのか、要因を特定してゆきました。あり得るシナリオを検討したところ、有力な要因仮説が二つほど挙がりました。
――何だったのでしょうか。
まず、ジェンダー平等を進める流れで、最近昇格したばかりの女性が一定数います。等級が上がったばかりだと、同じ等級でも報酬水準がまだ低い例があるので、それが影響したのではないかというのが一点。もう一つは、採用する際に私たちが提示した年収に、男女差があったのではないかという点でした。
結果、前者については、重回帰分析をしても有意な差は出てきませんでしたが、後者では差が浮かび上がりました。入社時の年収に男女差があったということです。
――どういうことなのでしょうか。
転職市場意識した年収提示、潜んでいた要因
メルカリは、従業員の9割以…
- 【視点】
「説明できない格差」を説明できるように分析する、とても貴重な試みだと思う。メルカリは中途採用が多いので、社会全体のこのような格差を反映しているのだろうという指摘にはなるほどと思った。ビッグデータやAIでの処理が普及すると、社会に内在するこの
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