第10回魔物が出た甲子園、浴びた逆転弾 今、野球は「怖い」より「面白い」

有料記事魔物の正体

大宮慎次朗
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 ◇第93回全国選手権(2011年)2回戦

 八幡商(滋賀) 000000005 5

 帝 京(東東京)002010000 3

 「あれ、さっきまで俺たちを応援してくれていなかったっけ?」

 2011年、第93回大会2回戦。1球ごとにわき起こる手拍子と異様な歓声に、帝京(東東京)の2年生左腕、渡辺隆太郎は戸惑った。

 相手は八幡商(滋賀)。突如、「魔物」が顔をのぞかせたのは、3-0とリードして迎えた九回だ。1死から安打を許すと、どこからともなく手拍子が聞こえた。次第に大きくなり、甲子園全体が「本当に揺れた」ように感じた。

 さらに2者連続で初球をとらえられ、満塁。味方の失策で1点を失い、なお満塁のピンチが続いた。

 右打席には5番打者の遠藤和哉。ファウルで粘られた。直球なら長打は打たれない、と思った。フルカウントからの9球目。スライダーのサインに、首を振った。打球は右翼ポール際に飛んだ。

 「ファウルだ」

 思いとは裏腹に、4万7千の歓声と悲鳴が甲子園にこだました。

 「取材ってことで、映像を見返しましたよ。良いピッチングですよね。八回までは」

 29歳になった渡辺は笑って振り返る。あの日は「捕手のミットが近く見えた」ほど調子が良かった。スライダーがさえ、8回を散発2安打9奪三振。二塁すら踏ませていないことに気づかぬほど、打者との勝負に集中していた。

 「あの異様な球場の雰囲気は、魔物のようでした。あのホームランも、普通ならファウルになると思いましたし」。

 では、2年生投手は「魔物」を前に弱気になったのか。

 「いや」と否定し、続ける…

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大宮慎次朗
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