第4回音楽家のジストニア、プロの1~2%発症 周囲に相談できず孤立も
音楽家のジストニアとはどんな病気なのか。2年前に放映されたNHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」でも、オダギリジョーさんがこの病気とみられる症状に苦しむ音楽家を演じた。自身も発症してピアノの演奏活動を約10年にわたり中断した神経内科医の青嶋陽平さん(35)に、最新の事情を聞いた。
Q どんな病気ですか。
A ジストニアは運動障害の一つで、筋肉に勝手に力が入って動作や姿勢のコントロールが利かなくなったり、動きがぎこちなくなったりする病気です。さまざまな分類があり、音楽家のジストニアは「局所性動作特異性ジストニア」の一つです。
多くの場合、日常動作にはあまり障害はありませんが、その人の職業などにかかわる特定の専門的な動作が影響を受けます。
音楽家に限らず、執筆やタイピング、テレビゲームなど、体の一部を集中的に使う作業をする人の間で発症することがあります。
広いくくりでは、野球選手が突然うまく送球できなくなるなどの「イップス」も、局所性動作特異性ジストニアの一種と考えられています。
ピアノやバイオリン、トランペットでも
Q 音楽家のジストニアではどのような症状が起こりますか。
A ピアノやギターでは指、バイオリンでは指や腕、フルートやトランペットでは指や口、ドラムでは足や手というように、演奏時に酷使される部位に多種多様な症状が現れます。
例えば、指の場合は勝手に丸まったり、隣接する指どうしが引き寄せあったりします。管楽器奏者の口では、息を吹き込む際の「アンブシュア」という形を思うように保持できなくなったりします。ドラマーの場合は足にこわばりが起きて踏み込むタイミングがずれたり、スムーズに連打ができなくなったりします。
力が過剰に入ってしまうだけでなく、力が維持できずに抜けてしまうこともあります。
Q どのような仕組みで起こるのですか。
A 高度な動きの訓練を長期間続けることで、神経の回路に望ましくない変化が起こってくることが考えられています。局所性動作特異性ジストニアは、訓練の過程で余分な動きや感覚まで覚えてしまい、その反応が脳と体に染みついてしまっている状態です。特定の状況になる、または特定の刺激が入ったときに、体が勝手に動いてしまう、反射的な現象とも言えます。
Q 精神面との関係はありますか。
A この病気は、高度な訓練の長期間の継続がまずありきで、発症の主な要因がメンタルということはありません。ただ、大きなプレッシャーや精神的ストレスを感じる環境では発症のリスクが高くなるとされ、精神的負荷が大きな場面では、発症者の症状がより出やすくなります。
ロックやポップスでも相次ぐ発症
Q ジストニアを発症する音楽家はどれくらいいるのですか。
A これまでの報告では、プロ演奏家の1~2%が発症するとされています。クラシック奏者でリスクが高いと言われていますが、ロック、ポップス、ジャズなどの演奏家でも発症するケースが相次いでいます。
プロの音楽家にとって、演奏技術はその人が最も好きで得意だったこと、最も努力してきたことであり、それ一筋で行ってきた職業であり、生きがいであることが少なくありません。発症によって突然それが奪われ、心理的に深い傷をもたらすことが少なくありません。
ジストニアのことを周りに相談したくても、知られると仕事面で不利になるのではないかという心配もあり、誰にも相談できずに孤独に陥りやすいという問題も指摘されています。
Q 治療法はありますか。
A ジストニアを克服するこ…
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- 【視点】
ジストニアという病の存在を、この連載で初めて知りました。「周りに相談したくても、知られると仕事面で不利になるのではないかという心配もあり、誰にも相談できずに孤独に陥りやすいという問題も指摘されています」。ピアニストで神経内科医の青嶋さんの言
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