体操の会場を見下ろす仮設スタンドの一角に、10台以上のモニターが並んでいた。昨年9~10月にベルギー・アントワープで行われた世界選手権。スタッフは画面を見ながら「システム」が正常に作動しているかチェックしていた。
今大会で、人工知能(AI)による採点支援システムが初めて全種目に導入された。鉄棒やあん馬の器具の周りには、ビデオカメラが4~8台ずつ。AIはその映像をもとに、選手の骨や関節の位置を認識し、技を即座に識別していく。
審判間の判断が食い違った時や、採点に選手側から「インクワイアリー(問い合わせ)」があった時に限って、審判が参照して判断する。パソコンのボタンを押せば、確認したい技の場面に瞬時に移り、3D映像とともに、各部位の角度の数値などが瞬時に示される。
【連載】新世AI
人間と同じように応答できる最新のAIが登場したことで、私たちの暮らしや仕事、社会はどう変わっていくのでしょう。その変化は人間に幸福をもたらすのでしょうか。進化を続けるAI技術の可能性と課題を追う連載です。
国際体操連盟(FIG)の渡辺守成会長(65)は会見で、「このシステムによって、公平で透明性のある判定を受けられるようになる」と胸を張った。
人が裁く体操の審判は過酷だ。基準が変わらぬように同じ人が朝から晩まで、審判を務める。演技から目を離さず、手元の紙に技ごとに異なる記号を書き連ねていく。休憩が1日15分のこともあるという。世界選手権など大きな大会ではそれが1週間続くことも。
国際審判員で、日本体操協会審判委員会の近藤昌夫委員長(55)によると、この30年間で、選手の縦横の回転が増し、技の難度は桁違いに上がっているという。さらに、体の角度や静止時間といったルールの細分化も進んだ。「目と頭をついていかせるのは大変だ」
見慣れた選手の演技であれば…