エース「この世界のことを……、行き先に迷わずにすむほどに。
何もかもを知りたいと思う?」
アリス「…………。 ……分からない。
それが、いいことなのかどうか……、分からないの」
エース「そうだね。 知るまでは判断がつかない。
そして、判断した後だと取り返しもつかない」
審神者「……何もかもを知ったら、アリスは迷わず現実に帰る」
骨喰「現実に帰ったら、もう夢の中には戻れない……?」
審神者「答えを知った推理小説は、もう推理物として楽しめない。
推理物としてその世界を楽しめるのは答えを知らずに迷っているうちだけ。
知ったらその世界の夢は覚めてしまう」
鯰尾「あ、エースがジョーカーになった」
骨喰「これは……ジョーカーがエースに見えていた、ということか?
それとも、エースがジョーカーに見えている……?」
審神者「まさかのエース、ジョーカー同一人物説!
……あ、人数といえばスペアリで登場人物の数が丁度24になるんだ」
鯰尾「24……一日の時間?」
審神者「うん、ただちょっと引っ掛けというか、わからないことがあってね……。
ハートの城:ペーター、ビバルディ、エース、キング
遊園地:ボリス、ゴーランド
帽子屋屋敷:ブラッド、エリオット、ディー、ダム
時計塔:ユリウス
夢:ナイトメア
………これで12人。
クローバーの国のアリスで追加されたのはグレイとピアス、14人。
ダイヤの国のアリスでシドニー、クリスタ、ジェリコ……17人。
スペードの国のアリスの新住人、ライオン、ユニコーン、ペガサス……これで20人。
ハートの国のアリスツインでディーとダムの存在を消して登場する、ハンプティとダンプティ、ディーとダムを含めたままカウントするなら22人。
ジョーカーの国のアリスでジョーカー、ブラックさんとホワイトさんを分けるかは微妙だけど……。
1人として数えるならアリスも含めて24人、2人として数えるなら、アリスを含まず24人。
これが恐らくほとんどの人が考える数え方」
骨喰「……なるほど。 エースが余所者でまだ生きている存在なのだとしたら、それだと数が合わない」
審神者「なのです。 でも、あちこちに現れる性質とか迷子とかジョーカーと一緒にいるとか……それらの情報を加味して考えると高確率でエースはまだ生きていると思うの。 だからきっと、この数合わせはフェイク」
鯰尾「となると、怪しいのは1人で2人存在するジョーカーと、ディーとダムを消して登場するっていうハンプティとダンプティだね」
審神者「うん、因みに最初にこのカウントの仕方を教えてくれたのは、ハートの国のナイトメア。
夢の中で全員の名前をアリスの前で列挙してみせて「12人……12……あなたたちは時計……時間なのね……」ってアリスが気づいて、それに対して正解と言った。
でも、ジョーカーとの会話を聞く限り、ナイトメアはアリスを騙そうとしている。
夢の中では特に惑わしてくるともジョーカーは言っていた。
だからね、エースを含めて12人っていうのを最初にアリスに教えたのが、そもそものミスリードなんだと思う。
それを教えることによって、エースがこの世界の住人で役持ちだとアリスもプレイヤーも信じて疑わなくなるから、恐らくナイトメアはそれを狙って言ったんだ」
骨喰「エースが住人じゃないと分かれば、そこから連鎖して様々なことに気づく。 それを阻止する為か」
鯰尾「どんなことも最初の認識は重要だ。 そこを誤るとどこまでいっても間違え続ける」
審神者「警察の杜撰な初動捜査のせいで調べていれば解決するはずだった事件が迷宮入りあるあるなのです」
骨喰「しかも最初の間違いとは、心理的にも一番訂正し難い部分だ。
途中の間違いならいくらでも訂正して軌道修正できるが、最初の間違いはそれを認めてしまったら今までの全てを失う……」
審神者「どの数え方が正解なのかはわからないけど、エースとアリスを除外した数を最初に導き出さないといけないんだと思うの。
ペーター(1)、ビバルディ(2)、キング(3)、ボリス(4)、ゴーランド(5)、ブラッド(6)、エリオット(7)、ユリウス(8)、ナイトメア(9)、グレイ(10)、ピアス(11)、シドニー(12)、クリスタ(13)、ジェリコ(14)、ライオン(15)、ペガサス(16)、ユニコーン(17)……これで17人。
ディーとダム、ハンプティとダンプティ
ブラックさんとホワイトさん……そう数えると23人。
このパターンだと、アリスがこの輪の中に24として加わるかどうかのゲームで、エースはアリスを助けに来た存在。
だけどアリスの時間の世界を見ているうちに、“助ける”の意味がわからなくなってしまって迷い続けている……。
恐らくこれが一番王道的な考え方。
次に、ディーとダム、ハンプティとダンプティは互いを打ち消し合う存在だとすると……」
鯰尾「ブラックさんとホワイトさんを別で仮定しても、21人。 24には3人足りない」
審神者「なのです。 アリスとエースだけが生きている人間だと仮定すると、3人足りない状況は物語として美しくない。
あ、でもナイトメアが絡めば3人足りないのパターンもあるのかな?」
骨喰「その数字を作るまでにナイトメアも人数に入れているのだからそれはないだろう」
審神者「そっか……。 じゃあつまり、この可能性は低いってこと。
次にジョーカーを1人として数えてディーダムとハンプティダンプティを両方数えたパターン。
22人、24には2人足りない……エースとアリスで24になるから、この状況はあり得る。
逆にジョーカー1人で双子が片方のパターンも足りない人数が4人になっちゃうから、この可能性も低いと思う。
……ナイトメア・ジェリコ・エース・アリスこの4人が現実世界にいた余所者だと仮定したら、この4に意味を見い出せる考え方もありそうだけど……いや、でも、そっか……チェシャ猫も現実世界を知っていたってことは今は完全な住人でも元余所者だろうし、それはないか。
………今のところ、わかっている情報から推測できる世界観とアリスが挑んでいるゲーム内容はこんな感じ。
双子とジョーカーっていう数え方が難解な存在を2人……いや、5人? ……いやいや6……とにかく!
このややこしさは絶対にミスリードとトリックに使っているはず。
ハートの国のキングだって唯一役持ちなのに攻略キャラじゃなくて影も薄いせいで、私も最初なんとなく他の役持ちとは違うのかなって除外して考えたりとかしちゃっていたし……絶対にここは意識してハートの頃から数字を上手く誤魔化しているはず」
骨喰「ふむ……。 確かに物語としても、予想外やどんでん返しは面白いし、良作と呼ばれる話には大抵それが付き物だ」
審神者「なのです! これは若干メタ的な推理の仕方ですが、物語を読む時はそのトリックで物語が美しくなるかどうか、それ以上に美しく物語を魅せられるトリックはないか、このトリックで物語は面白くなるのか、自分は面白いと思うのかを考えるととんでもなく的外れな推理をしている時に「あ、これは外れだ」ってなんとなくわかるよ」
骨喰「なるほど……。 現実には使えないかもしれないが、面白い推理の仕方だな」
鯰尾「面白くない物語なんて、誰も読んでくれないもんね。
作家が書く以上、物語は常に面白くなくてはいけないという縛りがある。
それを軸に考えた、ある意味現実的な考え方だ」
審神者「まあ、世の中には室内は密室でチェーロックが掛かっていた、しかしチェーンがとても長かった!とか完全な密室だった、しかしその密室には屋根がなかった!なんてトリックが出てくる作品もあるけどね」
骨喰「そんな作品があるのか? 酷い話だな……」
審神者「最終話のちょっとしたおふざけだけどね。
その作品が描いていたのは物理的な密室じゃなくて思考の密室だったから、そういう意味でも面白かったよ。
本人がそこを密室と思い込んでしまったら、傍から見てそれがどんなに馬鹿げた密室でも、そこに囚われている本人は気がつけなくて決して密室からは出られない……。
そういう、心の密室の難しさをよく描いていたと思う。
その密室を描いた作者を馬鹿にしていた読者が多かったけど、私は馬鹿にしないよ。
その密室で作者が伝えたいことが解ったから、解ったら馬鹿になんてできない。
誰だって自分の心に他人から見たら「どうしてそれに拘って囚われているの?」みたいな、そういう馬鹿げた大事な密室があるはずだから。
それが理解できるなら、笑えないはず……笑えても、馬鹿にはしないはず……。
……で、アリスの話に戻るけど、どのパターンが正解かな?
ここまで絞れたけど、ここから先が決め打てなくて引っ掛かるのです……」
鯰尾「うーん……案外、正解がないってパターンもあるかも」
審神者「私、間違ってる……?」
鯰尾「うぅん、そうじゃなくて……。
スペードでは白と黒にゲームが分かれているんでしょ?
アリスが自分の存在や住人の存在をどう捉えるか、その違いで白と黒に分かれている可能性があるってこと。
例えば、エースが余所者だと気づいて主が今話したような解釈で世界を認識したら黒。
それができずにエースも住人だと思い込んだまま世界を認識したら白とか。
アリスの世界なんだから、アリスの認識と解釈次第で世界の、アリスの“正解”が変化する可能性もあると思うんだ。
つまり、アリスがどちらを“正解”と捉えるか、アリスがどの解釈を自分の解釈とするか。
そういうのを白黒つけるって意味でホワイトワールドとブラックワールドなのかも」
骨喰「審神者の、俺たちの解釈と同じだな。
俺たちという存在を知って、それをどう解釈して俺たちの存在を認識するか。
その正解は個々の審神者に委ねられている。 だからこそ、全く違う正解が並び立つという矛盾が生じる。
それらの矛盾も包括した現状の世界が正に正解……」
鯰尾「うんうん、そんな感じ。 実際そうなるのかはわからないけど、夢って性質を吟味してもあり得るはずだよ」
審神者「……やっぱりアリスシリーズって考えれば考えるほど面白い。
審神者として勉強になる部分もあるし、審神者養成学校とかがあったらこれはうみねこと並んで教材にするべき物語」
鯰尾「きょーは鍛刀の授業だー!」
審神者「いーやー! 鍛刀の授業怖いー! 刀剣男士をつつく授業がいいですっ!」
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