薬研「ほら、ホットミルクだ。
飲めば今日はぐっすり眠れるぜ」
審神者「ホットミルクで眠れるっていうのはプラシーボ効果…」
薬研「けど、好きだろう?」
審神者「うん…」
薬研「じゃ、今夜はこれで騙されておけ」
審神者「………ありがとう、薬研。
……もう近侍降りていいよ。
これ飲んだら私も帰るから」
薬研「大将がここにいる間は、必ず誰か一人が近侍を務めるのが決まりだろう?
ちゃんと帰るまで傍にいてやるさ」
審神者「………………」
薬研「ほら、4月だがまだ冷える、体冷やすなよ」
審神者「…………………。
……………………薬研」
薬研「ん?」
審神者「私は…何を、どうすれば良かったのかな?
許せないのにお婆ちゃんを許したふりして、“良い子”でいれば良かったの?」
薬研「…詳しい事情はよくわからんが、それができれば、大人の対応ってやつだな。
けど、そうしなかったからって、大将が間違っていたとは俺は思わないぜ。
見舞いに行かなかったのも、葬式に参加しないのも。
それがどうでもいいとか、ましてや面倒くさいだとか、そういう理由で選んだ選択じゃないんだろ?
あんたの心が今まで散々悩んで苦しんで、その末に至った答えなら、間違いなんかじゃないさ。
どんな結果になったって、自分が選んだその答えを大切にしろ。
それとも…後悔でもしてるのか?」
審神者「うぅん、後悔はしていない。
……ただね、誰も私の気持ちなんてわかってくれないんだなって、ちょっと虚しくなっただけ」
薬研「人間に解ってほしいのか?」
審神者「……無理だよ。
人間から見たら、私はただの非常識でおかしい薄情者……。
ま、実際そうか…だって、私、“良い子”じゃないもん。
だけど…もう少し何かが違えば、普通にお見舞いに行って、普通にお葬式に参加する。
そんな未来もあったかもしれないのに……なんでここにしか来られないんだろう…。
………………ま、どう足掻いても、これが歴史だよね。
遡行軍があの日のお婆ちゃんに幼い頃の私を助けさせようとしたら、私はそれを許さない。
運命を享受することが、選択をした人達の責任でしょ?」
薬研「そうだな。
協力するよ、どこまでも」
審神者「……そっか。
審神者業と同じなんだね……。
どうしようもないことや、思い通りにならないことばかりだったけど…。
私は全部、その時、ちゃんと悩んだんだから……守らなきゃね、自分の選択を。
ありがとう、薬研、吹っ切れた」
薬研「俺はただ話を聞いていただけだよ。
吹っ切れたって言うなら、それは大将の力だ」
審神者「私一人だと塞ぎ込んじゃって、いつまでも同じ思考ループしちゃうから…。
聞いてくれて、相槌を打ってくれるだけで、本当に助かる。
だから、ありがとう……でもね、薬研、ひとつだけ…」
薬研「なんだ?」
審神者「あんまり私に、入れ込みすぎないでね…?」
薬研「ああ、心配しなくても、ちゃんと適度な距離で大将を助けてやるよ。
じゃないと、惚れられちまうかもしれねぇもんなぁ(笑)」
審神者「それに関しては大丈夫。
私の恋心はリサイクルに出してないから、今頃ごみ処理場で木っ端微塵だよ、ふふ」
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